海の前ではみんな笑顔に、「Ocean’s Love」のサーフィンスクール

「もう一回!もう一回!」時折小雨がぱらつくなか、海岸に子ども達の歓声が響きます。ボランティアと一緒にサーフボードに腹ばいになって波にのる子、何度もボードの上に立とうとチャレンジする子。認定NPO法人Ocean’s Love(以下、Ocean’s Love)のサーフィンスクールが9月22日に開催されました。

Ocean’s Loveは、知的障害児・発達障害児の小学1年生から高校3年生までを対象としたサーフィンスクールを開いています。今年は神奈川県茅ヶ崎市を中心に、北海道・愛知県・島根県・宮崎県で実施されました。
サーフィンスクールに参加する人たちは、半数以上が口コミでやってきます。2005年から2018年で障害児本人とその兄弟、およそ延べ1,500人の子ども達がサーフィンを体験しました。
「海に来ること自体が初めてでどうなることかと思っていましたが、子どもがとても楽しんでいました。チャレンジする一歩を踏み出せてよかったです。海で親子ともども気持ちが開放されました」と笑顔の保護者や、これをきっかけに自分でも何かできればいいなと話す保護者も。障害がある子どもと海に出かけるのは、保護者にとってもハードルが高いようですが、皆さん「来て良かった」と口を揃えていました。

「参加者が集まらない」から口コミで人気に

Ocean’s Loveの副理事長でスクール代表のアンジェラ・磨紀・バーノンさんはプロサーファーでもあります。兄に障害があり「自分に何かできることはないか」と思っていた時、ハワイで1996年から始まった「Surfers Healing」という団体のサーフィンスクールにボランティアとして参加しました。そこでは、自閉症の子ども達がボランティアとマンツーマンでサーフィンを体験します。波に乗り、海から上がろうとしないほど楽しんでいる子ども達の姿に、アンジェラさんは「日本でも障害児のためのサーフィンスクールを開こう」と決心しました。国内での障害児・障害者の55.6%が過去1年間にスポーツ・レクリエーションをしたことがないという調査結果もあります(※)。障害があると楽しむことから排除されがちな日本だからこそ、「やる意義がある」と思ったそうです。
はじめはサーフィンのスポンサー企業のイベントとして始まったスクールでしたが、なかなか参加者が集まりません。「海なんて、サーフィンなんて『危険なのではないか』と思われていた」とアンジェラさんは言います。
そんななか、知り合いの横浜の知的障害児施設の職員が自分の勤める施設の園長へ紹介してくれたことがきっかけで、園長が「なんでも子ども達にチャレンジさせたい」と賛同し、最初のサーフィンスクールが実施されました。回数を重ねるごとに障害者の家族のコミュニティ、施設職員のコミュニティなどに口コミが広がります。4年目からは企業イベントから独自開催になりました。参加希望者が増え、5~6年前からは抽選で参加者を決めなければならないほど人気が出てきました。「たくさんの子ども達にサーフィンを体験してほしいのに、海に入れるのは6月から9月までの4カ月間だけです。週末が足りないんです」とアンジェラさんは言います。
※「地域における障害者のスポーツ・レクリエーション活動に関する調査研究報告書」(平成25年度)
(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/suishin/1347306.htm

サーフィンスクールを支えるボランティア

「全国各地でサーフィンスクールを開催したい」というアンジェラさんをサポートするのがボランティアです。今年は2カ所でサーフィンスクールを新規開催しました。「新しい場所で開催する時も、リピーターのボランティアが来てくれて心強いです。Ocean’s Loveのサーフィンスクールにボランティアとして参加しながら、旅先で自分もサーフィンを楽しもうと各地にやってくる方たちがいて『全国制覇』しているメンバーもいるのですよ」。
サーフィンスクールに参加するボランティア数は100人を超え、当日はほとんどボランティアによって動いていきます。子ども1人に少なくとも4人のボランティアが付き、目を配ります。2018年最後のサーフィンスクールには、遠くはハワイ・台湾・大阪からもボランティアがやって来ました。昼食用のバーベキューを焼くボランティアの中には、サーフィンスクールの卒業生もいます。
ボランティア初参加の男性は「子ども達がサーフィンを楽しんでいるのはもちろん素晴らしいですが、お父さんお母さん達が笑っているのを見られたことがとても良かったです。もっと早くこのボランティアを知りたかった」。
また、別のリピーターの女性は「子どもの笑顔が参加の原動力になります」と話してくれました。
障害のある子ども達と「もっとコミュニケーションをとりたい」「上手に接するようになりたい」というボランティアのために、サーフィン講習会や障害の特性を知る勉強会も開催しています。2017年には8回の講習会・勉強会に133人が参加しました。

障害のある子どもと家族が海で楽しめるように

新たな試みも進んでいます。サーフィンスクールの受入は18歳までです。子ども達はどんどん卒業していきます。今年から、その先へのチャレンジをサポートするために就労支援プロジェクトを新たに始めました。サーフィンスクールのように「新しいことにチャレンジして、成功体験を積める場をつくりたい」と考えています。また18歳以上でも参加できる「サーフィン体験会」も昨年から始めました。
アンジェラさんは「子どもの時は新しいことにチャレンジする場として、仕事をするようになったらそのストレスを発散し、癒される場として、サーフィンをする機会を作っていきたい」と新たな目標に挑んでいます。
「これは私の野望なのですが。」アンジェラさんは続けます。いつでもサーフィンができるように、ハワイでの拠点をづくりを計画しています。2019年にはハワイで日本人障害児のためのサーフィンスクールをスタートする予定です。「5年後にはホームとなる宿泊施設をつくり、障害児を育てている家族が気兼ねなく泊まってサーフィンやヨガをして過ごせるようにしたいです。また、障害のあるハワイの子ども達、その家族と交流ができるようにして、様々な文化や考え方に触れることによって保護者の孤独も減らすことができたら」。自身の経験から、障害のある子どもだけでなく「家族も笑顔になれる」活動を続けるアンジェラさん。サーフィンスクールの会場にいた全員が日焼けした笑顔で帰っていきました。

寄付・ボランティアのお問合せ

認定特定非営利活動法人 Ocean’s Love

TEL/FAX 0467-81-5986
Email:info@oceanslove.jp
URL:http://oceanslove.com/
Facebook:Ocean’s Love

小林 ゆき プロフィール

祭とサーフィンのさかんな町で、神輿は見るだけ、海は浸かるだけで育つ。ずっと住んでいるのに、地域の行事に関わっていないため知らないことがたくさん!知ることは灯りをともすことと信じ、知っているつもりのこと、身近すぎて気がつかないことを知るためにアンテナを立てています。