まちづくりは関係づくり ―「まちづくりスポット茅ヶ崎」の取り組み

茅ヶ崎市の南西部に位置する浜見平団地(茅ヶ崎市浜見平)。その東端にある商業施設の2階に入居する「NPO法人まちづくりスポット茅ヶ崎」の交流スペース正面からは、富士山を望むことができます。近くでは公園拡張と新しい商業施設建設工事の真っ最中です。
2019年に築55年を迎えた浜見平団地は現在、大規模な建替え工事が進められており、それに合わせて行政や防災の拠点の再整備が始まっています。団地周辺の浜見平地区を含む茅ヶ崎市南西部(南湖・浜見平・松尾・中島・柳島・柳島海岸地区)のエリアマネジメントと地域の活性化を目的に、多世代が交流できる機会・場作りに取り組んでいる団体がまちづくりスポット茅ヶ崎です。
事務局長の秦野拓也さんとスタッフの柴田真季さんに、まちづくりスポット茅ヶ崎の取組についてうかがいました。

イベントをする場から地域の交流の場へ

まちづくりスポット茅ヶ崎が運営する交流スペースは、2015年4月に商業施設「BRANCH(ブランチ)茅ヶ崎」の2階にオープンしました。同団地再整備事業の一環として、茅ヶ崎市では初となる公民連携(PPP)手法を使い、大和リース株式会社が主体となって整備した街区に位置しています。
同社ウェブサイト(※1)によると「まちづくりスポット」は同社が建設・運営する商業施設内に設ける地域交流の活動拠点で、全国に8カ所あります(2019年3月現在)。地域社会・NPOと共にまちづくりを推進するのが特徴で、この茅ヶ崎の「まちづくりスポット」も住民や認定特定非営利活動法人NPOサポートちがさき等の地元団体、茅ヶ崎市と同社が中心となって設立をサポートしました。
まちづくりスポット茅ヶ崎はこの交流スペースを拠点に、「多世代のつながりを生み出す」「まちを元気に、暮らしを楽しくする」「まちを美しくする」「地域の暮らしを守る」という4つのテーマを大切にしながら、出会いと交流の場を作り出しています。
開所した2015年度は、まずまちづくりスポット茅ヶ崎と交流スペースの存在を知ってもらうため、主催イベントを数多く実施しました。親子で楽しむ「まちの工作室」や読み聞かせ、俳句や書道の「おとなの文化祭」、シニアと子育て世代が一緒に遊ぶ「むかしあそびのじかん」など、開催したイベントは42件を数えました。地域の人をイベントの講師として招いたり、参加者がその後新たな講師になることもありました。


2017年度の主催イベントは23件と2015年度の約半分に減りますが、交流スペースの貸出し回数は、2015年度17回から2017年度141回と大きく増加しました。地域の人たちに交流スペースが認知され、様々な催しが活発に行なわれるようになったのです。「2017年度はこれまでの事業をもっとたくさんの人と共有したいと、コミュニティセンターなど交流スペース外での活動に力を入れていました」と柴田さん。より多くのつながりを生み出すために、毎年同じことを繰り返すのではなく、状況に応じた様々な場を作り出す工夫をしています。

地域の問題を解決するための横串に

茅ヶ崎市南西部には約2万5千人、茅ヶ崎市の1割弱の市民が暮らしています。この地区の65歳以上の人口割合は28%と茅ヶ崎市全域、全国とほぼ同じですが、浜見平地区だけをみると65歳以上が48%と超高齢化が進んでいます(※2)。これは団地の建替工事にともない、新たな入居を制限したことに一因があります。けれども工事の進展と共に浜見平地区にも新たにマンションが建ち、新しい住民が流入しています。
 「まちづくりスポット茅ヶ崎に立ち寄る人と話していると、地区ごとの見えない壁を感じることがある」と、柴田さんは話します。町内会が違ったり、自治会に入っていたりいなかったり、古くから住む人と新しく住民になった人の交流がまだ進んでおらず「『一緒にやろうよ』と言いにくい空気があると思う」。
高齢者の多い地区、子育て世代が多い地区など、地区ごとに抱えている問題は異なります。しかし、その地区だけでは解決しづらい問題も「南西部全体でみるとうまくいくのではないか」という考えから、まちづくりスポット茅ヶ崎が事務局となり、「しろやまコミュニティ会議」が原則として2カ月に一度開催されています。団地内の公園にある「しろやま」という滑り台をシンボルに、行政・各地区自治会・地元商店会など立場の違う人たちが情報共有し、意見を交換する場です。毎回30人弱が参加するこの会議からエリア全体で取り組むプロジェクトが生まれています。

2017年度の「しろやま公園仮囲いデザインプロジェクト」は、工事が3年続く予定の新たな商業施設の建設にあたり「まちの中心に無機質な仮囲いが3年間もあるのは少しさびしい感じがする。何かできないだろうか」という商店会の人たちからの意見から始まりました。

先行事例を調べ、仮囲いに絵を描くことが決まります。しろやまコミュニティ会議のメンバーが役割分担をして、隣接するしろやま公園の使用許可を取ったり、絵を描きやすいよう仮囲いの形状の変更を依頼したり、調整を担当しました。地元西浜中学校、中島中学校、茅ヶ崎西浜高校の美術部は発表の場が少ないことから、しろやまコミュニティ会議が自治会等などを通じて彼らに絵を依頼し、夏休みの4日間を使って仮囲いをカラフルに彩る5枚の絵が完成しました。「歩く楽しみができた」「明るくなったね」地域の人たちの評判も上々です。

「住民が、地域で困っていることを『誰かが何とかしてくれる』と待つのではなく、当事者として課題を解決していくための入り口、手助けとなるような役割を果たしていきたい」と、まちづくりスポット茅ヶ崎では考えています。

情報発信することで仲間を増やしたい

まちづくりスポット茅ヶ崎のことを知ってもらうため、毎月「まちぽっち通信」を発刊し、ホームページとあわせ地域情報を発信しています。商業広告ベースのフリーペーパーとは異なり、地域の人や場所にフォーカスした構成が特徴です。このまちぽっち通信や、年次報告書はとてもかわいらしいデザインです。「お金はかけられないけれど手をかけている」という年次報告書の冊子は、カラフルで写真も多く見やすくなっています。

まちづくりスポット茅ヶ崎の賛助会員が「ここ(まちづくりスポット茅ヶ崎)の応援をしているんだよ」と見せたくなる報告書を作りたいと柴田さん。2017年度の賛助会員は個人72人と団体7つでした。交流スペースを利用する団体のほか、近所の母親たちも賛助会員になっているそうです。「何をやっているのか知ってもらって、目標を伝える人、応援してくれる仲間として賛助会員が増えると嬉しい」と秦野さんは言います。

ふらっと立ち寄れる場所からつなげるコミュニケーション

取材に訪れたのはイベントのない土曜日の午前中でした。交流スペースにはジグソーパズルを広げる男性、白内障の手術の話で盛り上がる年配女性の2人連れ、買い物帰りに立ち寄った主婦、イベントの詳細を聞きに来た親子、コンビニの袋からパンを出して食べる学生、お弁当や水筒持参の子どもたちが、思い思いに過ごしていました。

事務局長の秦野拓也さんとスタッフの柴田真季さん

気候のいいときは新聞を読みに毎日やってくる人もいるそうです。「来所された方とはできるだけお話をするようにしています」。何気ない会話からちょっとした困りごとをすくいあげ、支援につなげることもできます。

必要な人に必要な情報を伝えるために、ホームページだけでなく掲示板をはじめ、パンフレットなどの紙媒体も活用しています。「たくさんの人が住んでいるのだから潜在的な人手はあるはず。人と人をつなげる場を提供することで困ったことを減らしていきたい」と柴田さんは言います。直接交流スペースに来ることができない人たちにも情報を届けたいと、各地区でのイベントにかかわったり、商業施設でのイベントの開催など、活動の場所を広げていきます。

寄付のお問合せ

認定特定非営利活動法人 まちづくりスポット茅ヶ崎
TEL 0467-89-2501
FAX 0467-89-2502
mail: info@machispo-chigasaki.com
HP: http://machispo-chigasaki.com/
Facebook:まちづくりスポット茅ヶ崎 machispo.chigasaki
賛助会員 個人年会費3,000円(1口)

※1 大和リース株式会社 まちづくりスポット
https://www.daiwalease.co.jp/ryutuu/machispo.html
※2 「統計で見るちがさき 人口と世帯 (平成30年12月)」
http://www.city.chigasaki.kanagawa.jp/profile/tokei/1017088/1016919/index.html

(取材・文責/小林 ゆき)

小林 ゆき プロフィール

祭とサーフィンのさかんな町で、神輿は見るだけ、海は浸かるだけで育つ。ずっと住んでいるのに、地域の行事に関わっていないため知らないことがたくさん!知ることは灯りをともすことと信じ、知っているつもりのこと、身近すぎて気がつかないことを知るためにアンテナを立てています。