人と人がつながり、保護犬・猫がいない社会をめざす「paw pads」

飼い主から飼育放棄された犬や猫たち。彼らを保護施設から引き出し、里親を探す活動を行っているNPO法人paw pads(ぱうぱっず・神奈川県藤沢市藤沢3丁目)理事長・濱由紀子さん(44歳)に、動物保護の現場について話を聞きました。

「保護犬猫」が生まれる背景にあるもの

「わか メス 13歳位 ヨークシャテリア 2kg」「航 オス 11歳位 柴犬 10kg」。これは、paw padsのホームページに紹介された、里親募集中の保護犬や猫の情報です。

paw padsは、もともと犬好きだった濱さんが、茨城県内の動物保護団体を経て、2009年11月に藤沢市に設立しました。paw padsは「身勝手な人間により遺棄・放棄され不条理な死にさらされる動物達の現実を広く伝える」とともに「飼い主や、飼い主を支える家族や友人、今後犬や猫を飼ってみたいと考えている人々に対して、譲渡会などのイベントで適切な飼育管理やしつけを促す」ことを活動の柱としています。

電話やメールによる相談にも応じており、内容によってはドッグトレーナーや病院を紹介する場合もあります。このようにして「神奈川県内における飼育放棄や殺処分を減らすことに努め、人間とペットの共生がより豊かなものとなるまちづくりの推進を目的」として活動しています。

paw pads理事長・濱由紀子さんは「私達に保護された時点で保護犬猫はもうかわいそうな存在ではありません」と語ります。

ボランティアは自営業や会社員など15人ほどで、ほぼ全員が仕事を持ちながら活動しています。なかには小学5年生からボランティアを始め、就職後も活動を続けている方も。濱さん自身も団体職員という本業の傍ら携わっています。  

ボランティアスタッフの活動内容は、保護施設から引き出した犬猫を預かる「預かりボランティア」、保護犬猫の問い合わせメールの対応、チャリティーフリーマーケットでの販売担当、その他多岐にわたります。

また、犬の場合、中等度の心臓疾患があると月に5千円、猫が骨盤骨折などをしていると手術代に1回15万円など医療費がかかります。このほか高齢のペットの場合は介護用オムツも必要で、月1,500円/匹の支出をしなければなりません。ボランティアが難しい場合の支援の形として、paw padsではこうした費用について常時寄付を募っています。

「保護犬猫」が生まれる原因の1つに「飼い主の飼育放棄」が挙げられます。それではなぜ、飼育放棄をするのでしょうか?この10年間に延べ372匹の犬・猫を保護してきた同法人は「飼い主の経済的な困窮が目立っている」と指摘します。
 
特に、ペットが繁殖して飼育ができなくなる「多頭飼育崩壊」の場合、飼い主は費用のかかる避妊去勢手術をしないため、ペットは子を産み、どんどん増え続け、餌代がかさんで更に経済的に困窮するという悪循環に陥ります。

また、飼育放棄は「周囲から孤立しがちで、1人で困ったことを抱え込み、状況の悪化を食い止めることができない場合に発生することが多い」と、濱さんは飼い主の孤立が動物たちの命に影響していることを懸念しています。

paw padsは、主に川崎市が運営する「川崎市動物愛護センターANIMAMALLかわさき」(川崎市中原区上平間)に収容された犬猫を引き出しています。

川崎市によると(※)、2017年度(平成29年度)の犬猫の引き取り状況は「犬78匹(飼い主から5匹、拾得者等から73匹)、猫380匹(飼い主から65匹、拾得者等から315匹)」となっており、猫の多さが目につきます。この状況について、犬猫等の引き取りの項目には下記のように記載されています 。

(17ページ) “引き取り動物の大部分は離乳前の仔猫で、「産み捨てられた仔猫」「捨てられていた仔猫」等を拾得者から引き取る場合がほとんどです。猫に関しては、繁殖制限を行うことなく屋外で飼養したり、屋外と屋内を自由に行き来できるようにして飼養している飼い主がいまだに多いため、多くの仔猫が生まれてしまうという現状があります。”

このような現状は、全国の統計データにも現れています。

(環境省統計資料 「犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況」2018年12月28日更新 から転載 https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/dog-cat.html )

※川崎市健康福祉局保健所動物愛護センター「平成29年度 事業概要」
http://www.city.kawasaki.jp/350/page/0000049119.html
(『川崎市ホームページ』2018年10月16日 川崎市[参照]2019年3月31日])

新しい家族に出会えるまでの長い道のり

paw padsが前出の「川崎市動物愛護センターANIMAMALLかわさき」から引き出す犬猫の多くは高齢ですが、疾患がある場合も保護し、必要に応じて医療行為を施します。専門的な高度医療と救急診療を行う動物病院とも連携し、徹底的に治療します。

回復した犬猫達は、預かりボランティアの家庭に引き取られます。例えば小さい子どもや男性を怖がる犬猫は苦手な対象がいない家庭へ、腫瘍など抗ガン治療が必要な犬猫は、かかりつけ医に通わせることができる家庭へ依頼します。預かりボランティアは、傷ついた保護犬猫が「人間との生活は楽しくて良いことだ」と思えるように接します。

犬猫達の状態が落ち着いたら、次は里親探しが始まります。保護犬猫が、二度と同じ目に遭わないために、paw padsでは里親希望者と直接話して家庭状況などを確認しています。独自に定めた5つのステップをクリアし、「飼い犬の登録を行う」「避妊去勢手術を必ず行う」など複数の条件を守る誓約をしなければ、犬や猫を譲渡しないことにしているのが特徴です。

若くて元気な犬猫はすぐに里親が決まりますが、病気やシニア、人に不信感を持っている場合などは、なかなか決まらない傾向があります。それでも、paw padsは、時間と愛情をかけて、いろいろなタイプの犬猫の希望を見出す努力をしているのです。保護された犬や猫達が、終生大切にしてくれる新しい家族の元にたどり着くのは、決して容易なことではないのです。

「関わる全ての人間関係」が継続の要

paw padsが保護した猫。Maison arc-en-cielに預けられています。

横浜市・戸塚区の保護猫預かり施設「Maison arc-en-ciel(メゾンアルクアンシェル)」は、paw padsと連携しています。代表の荻野由香里さん(41歳)は、妹の金澤美穂さん(38歳)と共にpaw padsが保護した猫の里親になったことがありました。金澤さんが飼った子猫は、障害がありながら4歳まで精一杯生きました。この猫をシンボルとして、荻野さんは2018年2月に預かり施設を設立し、paw padsが引き出した猫たちの預かりボランティアを担っています。

このように、paw padsは、ボランティアや里親、その他さまざまな人間関係に支えられ、2019年に活動10年を迎えます。行政もその間、少しずつ状況改善に乗り出しています。

神奈川県動物保護センター(平塚市)は、横浜市・川崎市・横須賀市を除く県内の犬猫などを保護していますが、収容した犬猫の殺処分ゼロを継続しています(犬の殺処分ゼロは2013年度から5年間、猫の殺処分ゼロは2014年度から4年間継続)。

現在、老朽化に伴い新たなセンターを建て替え中で、「動物を処分するための施設」から「生かすための施設」へと生まれ変わる予定です。また建て替えに伴い、県は2018年から「かながわペットのいのち基金」を創設しました。これまでは、保護犬猫を譲渡につなげるために、治療や人に馴れさせる馴化は保護団体がボランティアとして担ってきました。今後は県が寄付を募り譲渡推進に活用する目的です。濱さんはこの動きについて「行政が、新しい展開を積極的に示すことは感謝しています」と、評価しています。

ただ、民間や行政の努力にもかかわらず、悲惨な状況はすぐには解決しません。「ペットを飼いたい人と繁殖業者との経済が成立している以上、『人間の事情』が優先されます。飼い主とともに業者に対しても 、販売できなくなった犬猫の取り扱いの適正化など、啓発を続けていくしかありません。動物の保護活動を社会の問題として多くの人に知ってほしい」と濱さんは話しています。

「保護犬猫を生みださない」というのは果てしない夢かもしれません。けれど、
ペットを取り巻く社会全体が良い方向に進めば、保護活動をしなくて済む時がきます。それがpaw padsが目指す未来です。

(取材・文/和田香世)

寄付・活動についてのお問い合わせ

特定非営利活動法人paw pads
メール:info@pawpads.sub.jp
URL:http://pawpads.sub.jp/

和田香世 プロフィール

フリーランスライター。報道の現場で20年培った経験を、地域に役立てたいと思い、市民レポーターを志望しました。