「成年後見」と聞いても、よく知らない方が多いのではないでしょうか。法務省は「判断能力の不十分な方々を保護し、支援する制度」が「成年後見制度」であると説明しています(※1)。認知症や障害などが理由で判断能力が十分でない場合、日々の金銭管理に困ったり、不当な契約を結んで不利益を被ったりすることが考えられます。そうならないためには、誰かが本人をサポートすることが必要です。裁判所が認めた「後見人」が、そのサポートを担えるようにした仕組みが、この「成年後見」です。
超高齢社会に突入した日本では、認知症の人が2025年には約700万人に達すると報告(※2)されており、認知症であってもよりよく生きられる環境づくりが求められています。
また、2020年東京パラリンピックを目前に控えた今、同じように障害者を取り巻く環境づくりについても、メディアで取り上げられることが増えています。では、認知症や障害があっても「私らしく」暮らしていくためには、一体、どんなサポートがあれば安心できるのでしょうか。今回は、成年後見制度のなかでも「法人後見」として活動を展開している「認定NPO法人よこはま成年後見つばさ(以下、つばさ)」を訪問し、現・代表理事の渡邉修一さん、初代代表理事の須田幸隆さん、副代表理事の熊谷美江子さん、同じく副代表理事の篠﨑美代子さんに実際の声を聞きました。
※1 成年後見制度~成年後見登記制度~(法務省)
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji17.html
※2 「認知症施策推進総合戦略~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~(新オレンジプラン)」について(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000072246.html
「せっかく集まったのだから」―つばさの発足
つばさの主なメンバーは社会福祉士で、横浜市の福祉専門職であった方々などプロフェッショナルな集団です。発足は、東日本大震災の一時避難所に横浜市福祉職OBが集まって、生活相談にあたったことがきっかけとなりました。熊谷さんは、「須田さんの呼びかけでみんなが集まることができた」と当時の状況を話します。
その後、避難所での活動は終了となりましたが、再会を果たした須田さん、熊谷さん、篠﨑さんの3人は「せっかく集まって、また人の役に立つことができたのだから、次は、法人として成年後見制度を担うことに挑戦したい」という話が持ち上がったと言います。社会福祉士である3人は、それぞれ後見人として既に活動していましたが、「個人で成年後見を受任し続けることには、限界がある」と感じていたと言います。そこで、2011年6月につばさの設立総会を開催しました。
その後、熊谷さんは、これまでのネットワークを生かして、情報提供しながら関係機関を回りました。その間、須田さんは法人設立の手続きを進めていきました。その過程で、福祉事務所で一緒に仕事をした渡邉さんに会い、メンバーに入ってもらったそうです。そうやって知り合いを中心に、どんどん仲間を増やし続けます。設立総会から4カ月後の同年10月にNPO法人として認証され、つばさの活動が本格的にスタートしたのです。
後見人としての活動がスタートする前の信頼関係こそ大切
つばさの実際の活動は、どのような考えをもって進められているのでしょうか。取材の現場で、須田さんは「なぜこのような服装(礼服)をしているか、分かりますか」と問いかけてきました。実は、この日の午前中は申立支援で知り会った人の葬儀でした。「その方は、手続きは始めていたものの後見業務が開始される前に持病で亡くなりました。しかし、知り合ったご家族もそれぞれに違った課題を抱えています。そのため、今後もこの家族と関わり続けていく必要性を見据えているため参列した」と須田さんは話します。
後見活動においては、信頼関係の構築が大切だと須田さんは続けます。そのためには、申立支援、つまり「実際に後見人としての活動がスタートする前が肝心である」と話します。「個人ではなかなかその部分を担いにくい」という課題があるなかで、「複合的な課題を抱えた方や資力に乏しい方に対して、『支援を受けるための最初の支援=申立支援』から関わることで、信頼関係を大切にした後見活動が出来ることは、法人後見の強みのひとつである」と須田さんは語ります。
本人と本人を取り巻く環境の両方に働きかける
最近、つばさに問い合わせてくる人たちの傾向について、家族ではなく「障害がある方の相談が増えている」と篠﨑さんは言います。そういったなかで、「本人による申し立てを積極的に支援しているのは、つばさの特徴のひとつかもしれない。家庭裁判所に付き添うことや、自分自身で制度を理解できるように絵を使って説明するなど、障害がある人にとっては分かりにくい成年後見制度を、本人が自ら理解し、安心して利用できるように支援しています」と
篠﨑さんは話します。
また、本人への支援だけではなく「本人を取り巻く環境にも働きかけること、地域連携ネットワーク構築が重要である」と言います。ケアマネジャーや民生委員、地域包括支援センター、基幹相談支援センター、区役所などと協力しながら、一緒になって支援を進める体制づくりや、親族による申し立ての場合は、親族支援をします。支援の方法は多様であると話します。
つばさが最も重視していること―マクロな領域へのアプローチ
つばさとしてこれまで、力を入れてきたのは、法人後見のメリットを生かした「マクロな領域へのアプローチ」であると言います。具体的には、国や自治体に向けて、成年後見制度の未来を見据えた政策提言をしていくことです。
成年後見制度において2019年4月から導入された「本人情報シート」は、つばさが蓄積した経験に基づく提案が反映されているそうです(※3)。また、「横浜市成年後見制度利用促進基本計画」(※4)にも、実践にもとづく意見を出しており、「(横浜市内の)区役所に行く機会があったら、ぜひ見てみてほしい」と須田さんは話しています。
※3 「最高裁家庭局による説明会 ~本人情報シートを中心に~」(つばさHP)
https://yokohama-tubasa.org/saikosaigijiroku20190211.pdf
※4 「横浜市成年後見制度利用促進基本計画素案へのつばさからの意見に対する横浜市の回答」
https://yokohama-tubasa.org/20181229yokohamakaito.pdf
市民に知って欲しいこと―つばさ基金
渡邉さんは「つばさの特徴は、担当者とスーパーバイザーのペアで活動するところにあるが、私は担当者養成講座の第1回の卒業生。その後、担当者として活動し、スーパーバイザーになり、そして今がある」と言います。とはいえ、こういったきめ細やかな支援体制と広範囲に及ぶ活動を支えているのは、スタッフの方々のボランタリーな精神に依るところも少なくない現状があります。
渡邉さんは、みなさんに知ってほしいこととして、「つばさ基金」があると話します。これは、費用の捻出が困難な人への資金的支援を目的に設立したもので、「この基金があることで、何とか支援につながる(例えば、ホームレスの方の家裁申立費用等)こともありました。ぜひ寄附を通じて、応援をお願いします」と言います。
誰もが「自分のこと」として認知症や障害について考えなくてはならない今だからこそ、法人後見で「私らしく」をサポートするつばさの活動は、より一層、重要なものになってきていると言えるでしょう。横浜から成年後見制度を引っ張っていくつばさの活動を、ぜひ応援してみてはいかかでしょうか。
寄附・活動についてのお問い合わせ
特定非営利活動法人 よこはま成年後見つばさ
〒240-0066
横浜市保土ヶ谷区釜台町5番5号ルネ上星川5-202
TEL/FAX: 045-744-5600
HP: https://yokohama-tubasa.org/
宇佐美勇祐 プロフィール
1988年に横浜で生まれて、横浜で育ちました。福祉系の大学を卒業後、社会福祉の現場で相談援助業務や児童の生活支援等に携わってきました。現在は、大学院の修士課程に進学し、社会福祉について学びを深めているところです。市民としてだけではなく、社会福祉士やソーシャルワーカーとしての目線からも、取材や記事の執筆をしていきたいと考えています。