みんな違ってみんないい、漢字王決定戦から見る子どもたちの世界・ 認定NPO法人地球学校

みんな違ってみんないい 自分の場所を見つける力を

「目指せ、漢字王!」。スタッフがこう呼びかけると、次々と子ども達の手が上がる。その場に響くのは、日本語だけではない。10月8日、認定NPO法人「地球学校」が主催する「漢字王決定戦」が、かながわ県民センター2階・かながわ国際ファンクラブで行われた。この漢字王決定戦は、地球っ子教室の活動の一環として2008年から開催されはじめたゲーム形式の学びの場だ。
 世界中で様々な言葉や人々が行き交い、その多様性を増すグローバル化社会。人口373万人以上※の横浜で生きる子どもたちの世界も、例外ではない。
 今回、様々な国から横浜に来た子ども達が経験するコミュニケーションの課題・そしてそれをサポートする活動について、理事長の丸山伊津紀さん、地球っ子教室担当理事の辻雅代さん、日本語教室担当理事の藤澤裕子さんから話を聞いた。
漢字王決定戦
(※ 参照 http://www.city.yokohama.lg.jp/ex/stat/jinko/news-j.html )

地球学校とは

漢字王決定戦
地球学校は、日本語教師の資格者を中心に2000年から活動を始めた。日本語・教科学習・コミュニケーションのサポートを目的に子どもを対象にした「地球っ子教室」や、ビジネスパーソンをはじめとした日本語レッスンを提供する「日本語教室」を事業として行っている。地球っ子教室は毎週土曜日、日本語教室はレッスン受講者のスケジュールに合わせて行われている。地球っ子教室の費用は無料で、日本語教室の費用は有料。
日本語教室は日本語教師の資格者を中心に26名・地球っ子教室は20名が現時点従事している。受益対象者の数は日本語教室52名、地球っ子教室73名となる。サービス利用者・提供者含めた参加者は年間で平均約延べ3000人強に至る。特に今回取材した地球っ子教室は、横浜らしく中国の子どもが最も多く、次いでアメリカ・フィリピンやタイなどの東南アジア諸国の出身の参加者も多い。日本語教室のビジネスパーソンの国籍は、インドのIT技術者が5割以上で次いで中国・アメリカだという。NPOとしての平均年間予算は約700万円前後で、主な収益は日本語教室の事業収入であり、会費・助成金は3割程度である。

地球っ子教室


地球っ子教室は、2003年から活動を開始している。親の都合で日本にやってきた子どもたち。学校の授業が分からなかったり、友達ができなかったりという問題を抱えた外国人の子どもたちが自分らしく生活できることが目的だ。近年は比較的低学年の子ども達の参加が増えているという。
漢字王決定戦は子どもを対象にした地球っ子教室の活動の一環として年に2回行われ、漢字に対しての苦手意識を克服することが目的だ。今回は小学校1年生から中学3年生までの子どもが参加した。3つのグループに分かれ、九と丸、午と牛などの漢字の違いをみつけて、違いを説明したり、各漢字を種類別に分類したり、物語のキーワードに合った漢字を当てたり、ビンゴをしたり、各グループ間で接戦が繰り広げられた。
議論の白熱するグループ、黙々とタスクを進行するグループ、日本語の堪能な子どもがリーダーシップをとるグループなどもある。それぞれのグループが異なる特徴を出し、最初は恥ずかしそうにしていた子ども達も、だんだんと手を上げるようになった。果敢にコミュニケーションを取ろうとする子ども達のエネルギッシュな様子と、同時に意思の疎通の難しさに戸惑う姿も見られた。

自己肯定感を育む場に

「みんな違ってみんないい」というメッセージが地球学校のモットーだ。地球学校は今回の漢字王決定戦のように、多国籍の子ども達が集い文化を交流する場を提供している。子ども達の自己肯定感を育むことを大切にし、他人と共に生きる力を育むきっかけを作るためだ。ケンカをしたり、遊びの中でけがをしたりするようなことは、学校教育で難しくなっているが地球学校ではそうした多様な経験を大切にしている。
「いいことでも悪いことでもいっぱい経験をしてほしい」と丸山さんは言う。教える側のスタンスとしては、「子ども達にちょっと何かあったときに助けてあげられるおせっかいおばさんのような立場でありたい」と辻さんは語る。

みんな違ってみんないい

「自分の場所をみつける力を身につけて欲しい。いじめない、いじめられないも大事」と藤澤さんは語る。
外国につながる子どもたちの多くが、戸惑いと孤独感を抱えている。自分の感情をストレートに出す子どももいるし、出さない子どももいる。日本語は上達し日本人の子どもたちとともにいても、どこか孤独感を感じている子どももいる一方で、同国籍の友達としかつながらず、なかなか日本語が上達しない子もいる。意思の疎通を妨げるのは言葉の壁だけではない。
 今回の漢字王決定戦後のスタッフ反省会では子どもたちの様々な個性や性格が挙げられた。面倒見のいい子・シャイな男の子・母国語で喋ってしまう子・問題が難しすぎて諦める子・簡単すぎて退屈する子など、様々な反応があり、衝突もする。女の子ならではのゴタゴタもある。年齢が他の子よりも上でも下の子の日本語能力に追いつけないことや、他のグループの子どもが自分に追いつけない時、子ども達がもどかしさを感じることも多々ある。最初のうちは特に、信頼関係の構築・意思の疎通が難しいこともある。
しかし、「お互いに言っていることがわからないという意味では、みんな同じ立場」と藤澤さんは指摘する。そして「ちょっと助けてあげれば越えられる山がある」と辻さんは優しく言う。
中華系、アメリカ、南米、東南アジアなどバックグラウンドは様々で、日本にいる理由も多様だ。親の国際結婚、転勤、留学、受験など。スタッフは家庭の事情は極力聞かないようにしている。
「日本人に同化する必要はない。けれども日本人の考え方を知るだけでもいい」と辻さんは言う。
「教育というのは目の前の今日のことだけではない。その成果が何十年後かにどういう形になるかがわからない。(将来)どこかで何かの糧になれば」と丸山さんは語る。
その丸山さんたち「教える側」も、子どもたちとのふれあいの中で、「子どもに寄り添う心」を学んでいるという。人の成長には「信頼関係の構築」が重要であることを実感しているそうだ。

継続性と信頼性

「立ち上げる苦労よりも続ける苦労はかなり違うと」丸山さんは言う。
NPOとして活動を続けるには、組織としての継続性と、周囲からの信頼が必要だ。
レッスン料などの事業収入や助成金、寄付金などによる活動資金の確保も不可欠だ。教室やアクティビティなどの活動スペースの確保も難しい。「予約開始日は毎月1日。元旦であっても朝5時から争奪戦」と丸山さんは苦笑する。
今のスタッフの年齢層は平均で50−60代。継続性と信頼性を確立し続けるためには無理をしないことも大切。「家庭と体は壊さない・できる時にできる人ができる事をする」が合言葉。そして、世代交代に向けて、うまく縦・横にバトンタッチしていきたい。
地球っ子教室では、子ども達の友達も大歓迎している。その場合でも、一度は保護者に顔を出してもらう、もしくは学校の先生に同伴してもらうようにしている。安全の確保は第一条件。大人にも子どもにも安心して関わってもらいたい。

人との繋がり

地球学校の皆さん

地球っ子教室における子どもたちの支援活動は、決して楽しいことばかりではない。勉強に身が入らず、荒れる子どももいる。「宿題を捨てられることもあった」と藤澤さんは笑う。子どもに無視され心が折れるというスタッフもいる。しかし、「骨折してこそ強くなる」と辻さんは笑い飛ばす。
やりがいは、やはり子どもたちの成長だ。そしてそれにはとても長い時間がかかることもある。ある子は上海から日本にやって来た当初、海を見て故郷を思い泣いていた。ピアノを弾くのが夢で、毎日、紙のピアノで練習し、ピアノを弾くことのできる高校へ進学した。その後、大学へ行き、就職をした。そのことを伝えるために地球学校にお礼を言いに来てくれたという。
「大変だけど毎回小さな気づきがある。誰かが見ているんだよという、親戚や地域のおじさんおばちゃんみたいな存在でいたい」と丸山さんは微笑む。
学校機関、NPO団体、インターン、デイケアセンターとも提携し、地球学校はその門戸を広げ続け、人の繋がりは増えてゆく。
(取材・文:乃木朋彦)

寄附・活動についてのお問合せ

認定NPO法人 地球学校
事務局:〒247-0007
神奈川県横浜市栄区小菅ケ谷1-2-1
地球市民かながわプラザ NPOなどのための事務室内
電話:090-1807-8837
FAX:045-563-9891
E-mail:daihyo@chikyu-gakko.org
URL:http://www.chikyu-gakko.org/

乃木朋彦プロフィール

1992年生まれ。 神奈川県出身。相模原市相模大野在住。
ニュージーランド留学時代に様々な民族的・文化的背景を持つ人々と友人になり、人々のストーリーに興味を持つ。現在は英語添削のバイトをしながら映像や小説の製作活動に挑戦しています。今後は国内外色々な場所を旅し、さらなるストーリーを発掘したいと思っています。