生活の中に科学がある NPO法人おもしろ科学たんけん工房

子どもたちの「科学する心」を育てたい

「科学技術の進歩が、却って人々の科学離れを生み出してしまうのではないか?」そんな危機意識から、将来日本を担う子どもたちの為に、科学体験の場を提供しよう、と発足した団体があります。おもしろ科学たんけん工房(神奈川県横浜市磯子区中原)は、科学実験・手作り工作・自然観察といった体験を通して、科学的思考に必要な「自発性・創造性」を育成することを目的に活動しています。その活動の中心になるのが「おもしろ科学体験塾」です。

対象は小学校4年生から中学校2年生までの児童とその保護者で、定員を上回る募集の場合は抽選をすることもあります。活動エリアは、横浜市・藤沢市・横須賀市の20箇所以上の会場で行われ、各地区が協力しながら体験学習塾をサポートしています。

遊びながら学ぶ環境を作りたい

おもしろ科学たんけん工房は代表理事の安田光一さん(87)を中心に、電機メーカー元社員らによって2002年4月に設立されました。安田さんは技術系ではありませんが、ソニー株式会社で働きながら、製造部門管理者や関連会社のものづくりの現場を体験したことで、科学と科学技術の大切さを、身に染みて感じるようになりました。その結果子どもたちの「理科離れ」を本気で心配するようになりました。その後、ソニー株式会社から湘北短期大学(厚木市)の事務局長を経て退職し、第2の人生の生き方を模索しているころ、偶然にも大学の同窓会で科学実験教室を開催している先輩に出会いました。その理念に共鳴し、1998年からその活動の手伝いをはじめることになります。

そして2001年春、自分の住まいの近くで「おもしろ実験・工作教室」を開催したいと考えるようになりました。先ず声をかけたのは高校の同期生で、この友人が「おもしろそうだ、やってみよう」と言ってくれたことが更に安田さんを後押し、2001年9月2日には設立準備会を設置。NPO法人としての道が開かれました。

そして現在まで「子どもたちが自転車で行けるところにあまねく科学体験塾を」を目標に、おもしろ科学体験塾をはじめ、学校支援や地域出前塾、科学体験活動推進スタッフ養成研修等、幅広く活動しています。

暮らしの中の科学を体験する

おもしろ科学体験塾では、遊びながら学ぶ環境の中で、ドキドキしたり不思議さを発見したりできるテーマを数多く準備しています。例えばICラジオ作りや竹とんぼ作り、空気の力を利用したストローロケット作り等、普段の暮らしの中での身近な科学を体験することが出来ます。

テーマごとに主任指導者を1人配置し、進め方や原理を分かりやすく解説していきます。日常の中に科学が密接していることを伝えることで、子どもたちの興味も更に膨らんでいきます。 参加児童の定員は24人。4人1班の計6班に、それぞれ1人ずつボランティアスタッフを配置し、きめ細かく指導し、難しい作業もこなせるよう配慮しています。

参加費はテーマによりますが、児童1人に付き500円から1000円程(傷害保険料も含む)。「テーマによっては小学校3年生が保護者と一緒に参加することもあります。実験をする上で安全であることを最優先に考えています。完成した時の子どもたちの嬉しそうな顔を見るとやりがいを感じます」と安田さんは参加者1人1人の様子や進み具合も確認しながら活動しています。

新型コロナウィルスの影響を受け、2020年3月から8月までは活動自粛を余儀なくされましたが、9月から対応が出来た会場から順次再開しています。感染防止の為、机・椅子の配置を工夫し、マスクやフェイスシールドを着用することも徹底しています。(開催状況は随時変更される場合があるので、問い合せが必要です。)

また、開始前と終了後に除菌を徹底し、定期的な換気を行い、所要時間を2時間程度に収まるよう心がけています。2020年10月24日(土)、横浜市戸塚地区センター(横浜市戸塚区戸塚町)で開催された「交流発電機をつくる」体験塾では、募集定員を12人に縮小しましたが、待ちに待った体験塾に大きな期待をしているかのように、18人の応募がありました。

「発電機はいつ頃・誰が発明したのか」「アラゴの円盤がどうして動くのか」など、子どもたちにも分かるよう実験を交えながら解説するなど工夫しています。「電気はずいぶんふくざつということがわかった」「磁石に力があるなんて初めて知った」と参加児童から寄せられたアンケートには、科学のおもしろさに触れた率直な驚きが記されています。 このような活動は、神奈川県子ども・子育て支援推進条例に基づき、地域に貢献している団体の活動と表彰され、2019年には第13回かながわ子ども・子育て支援奨励賞を受賞しました。

今後の活動のあり方

小学校の課外授業等への協力や地域イベントへの参加など、地域との連携にも努めているほか、科学体験活動推進スタッフ養成研修として、それぞれ年1~2回のスタッフ養成研修を開催し、ボランティアとして参加してくれる仲間を育成しています。発足当初は21人のメンバーから始まりましたが、現在は会員数220人(うち理事32人)が携わっています。メンバーの年齢層は50代から70代の退職された方をメインに活動し、その中の30%が女性で、専門分野問わず理科好きの人が集まっています。専門性を必要とするイベントシナリオ作成は30人程で担当し、その他イベントの演出や子どもとのコミュニケーションを取ることは、むしろ専門外の人の割合が多いと言います。「今は毎回参加児童も入れ替わっていますが、理想はもう少し長い時間をかけて、子どもたち1人1人の性格を知った上でコミュニケーションを取っていくと、イベントの質が上がると思います」と、安田さんは体験の質の向上を常に目指しています。

寄付についての思い

経済的に苦しい家庭の子どもにも参加してもらえるよう、参加費をできるだけ低く抑えて活動しています。そのため、実験や工作に直接かかる材料費や資料代以外、ほかの費用の大半は、参加費だけではまかなえません。

全員ではありませんが、会員自身も寄付するなど一部を負担しています。交通費をはじめ、会員自身の目に見えない負担もたくさんあり、こうした現状をそのままにしておくことに心苦しさを抱えていることも事実です。いくら熱意・情熱があっても活動を続けることが難しくなります。

NPO法人おもしろ科学たんけん工房 代表 安田光一さん

活動する会員以外からの寄付を募っているのは、このような事情からです。おもしろ科学たんけん工房の活動は、熱意あるボランティアをはじめ、子どもたちの科学に対する好奇心育成を支援する人・法人からの寄付を受け付けています。

また、おもしろ科学たんけん工房では、会計スタッフも募集しています。「活動に興味や関心を持った上で、団体を支える会計担当をやってもよいという方の協力を待っています」と安田さんは新しいスタッフ参加を呼びかけています。(※註記)

外部の社会環境も、会員個々人と会員組織という内部環境も、設立以来大きく変化しています。その中で安田さんは「単純に量的な拡大を追い求めるのではなく、この法人・活動のあり方を、深く掘り下げて刷新を図る必要がある」と考えています。

 そのためにも、活動する会員が相互に問題意識を共有化し、「目的を実現するための試みをこれからも続けていきたい」と、おもしろ科学たんけん工房の将来について考えています。

 子どもたちの「科学する力」を育み続ける活動は、これからも続いていきます。

団体情報

註記
【正会員】:法人の社員として、総会での議決権を有する会員で、法人の事業と運営を担当しています。もちろん科学体験活動推進スタッフとしての活動が中心です。年会費は個人6,000円/団体12,000円です。
【賛助会員】:会の運営を財政的に支援する会員。実務に直接関わる必要はありません。年会費は1口5,000円で個人1口以上/団体2口以上です。
【準会員】:会員ではないが会の活動に対して、実務的な支援を行う ボランティア。登録年度末に1回だけ1年単位の登録更新(最大2年まで)をすることができます。個人の能力に応じた様々なタイプの役割を受け持って頂きます。登録料は3000円(ただし、年度途中の入会の場合は、金額が異なります)。
【求人中の会計スタッフ】:活動に興味を持った上で会計の仕事に携わっても良いという方。簿記3級程度の知識のある方。

認定NPO法人おもしろ科学たんけん工房
〒235-0036神奈川県横浜市磯子区中原4-1-30
Tel/Fax:045-710-2679(代表の自宅)
HP:http://www.tankenkobo.com/

野地静香 プロフィール

神奈川県小田原市生まれ。仕事をしていく中で、相手の立場を考えて話すことの大切さを感じるようになり、東京アナウンスアカデミーに通い始める。卒業後はケーブルテレビの市民リポーターとして、地域に関わりながらさまざまな情報を伝えてきた。今後も神奈川県内の情報を広く伝えていくことを目標としている。