誰もが自由に移動できる社会を 認定NPO法人横浜移動サービス協議会

理事長の服部さん

自由に移動する。徒歩や車で何気なく行っていると思いますが、障害者や高齢者にとっては簡単にできることではありません。こうした人の移動にかかわる課題に取り組んでいる認定NPO法人横浜移動サービス協議会(横浜市中区)の理事長の服部一弘さん(57歳)、副理事長の山野上啓子さん(60歳)に話をうかがいました。

いつでも誰でもどこへでも

横浜移動サービス協議会は、認定NPO法人市民セクターよこはまが扱っていた移動をテーマにしたプロジェクトから、2000年に独立して発足。2004年にNPO法人となりました。「移動」は車を使うので道路運送法に絡んでくることもあり、専門的な活動になることから、その課題を考えるメンバーで独立することになったそうです。

現在では、誰でも自由に移動することができるよう、120ほどの団体・個人会員が、横浜市を中心に、外出が困難な人を対象にした移動サービスや移動支援サービス、また、これらのサービスを担う活動者支援といった事業に取り組んでいます。

発足以来取り組んでいるのは、外出が困難な人を対象にした車による移動サービスです。当初は、障害者を乗せられる福祉車両を持っておらず送迎が難しい人がいたり、また送迎を担うボランティアの負担を軽減するために費用を徴収すれば違法行為とみなされてしまったりと、多くの苦労がありました。こうした経験を経て、国土交通省・神奈川県・横浜市など行政と話し合いを継続し、法制度の変遷に合わせて今のサービスを確立しました。現在は「さぽーと・横浜」として福祉有償運送※1を提供しています。

また、車による移動サービスに加え、知的障害や全身性障害により一人で外出するのが困難な障害者のために、ガイドヘルパーが公共交通機関や徒歩での移動を支援する移動支援サービスにも取り組んでいます。

移動や移動支援のサービスを提供する一方で、これらに携わる活動者の支援も行っています。具体的には、車による送迎を行うドライバーに向けた国土交通省認定講習である福祉移動サービス研修(参加者102人/年)や、ガイドヘルパー・同行援護従事者養成研修(参加者116人/年)を開催し、サービスを担う人材を育成しています。

取材当日は、コロナ禍ということでソーシャルディスタンスに配慮し、視覚障害者の外出時に同行する援助者を養成する「同行援護従業者養成研修」が開催されており、多くの人が真剣に取り組んでいました。

曲がり角にさしかかった福祉有償運送

「さぽーと・横浜」は、2018年度にはドライバー26人の体制で2095件の運行を行いました。しかし近年、重度の障害者が外出するようになる、利用者の高齢化が進んで機能低下のために介助が必要になる等、支援にかかわる課題も多く存在し、利用者のニーズを充足しきれない状況になっています。

福祉有償運送は、あくまでボランティアとして活動するための仕組みで、「横浜市を交通圏域として設定されるタクシー料金の概ね2分の1の範囲内であること」と規定※2されており、一般のタクシーを利用する場合の半額までの費用しか得ることができません。このため、利用者支援の複雑化・多様化により、ドライバーに掛かる負担が増す中で十分な対価を支払うことができず、サービスを維持することが厳しくなっているのです。

国土交通省が全国のNPO法人・社会福祉法人等を対象に実施した調査※3でも、福祉有償運送における課題とその継続可能性について「ドライバーが不足している」37.2%、「現在の運送の対価では運送サービスの経費が賄えない」33.6%と報告されています(複数回答)。これらの課題を複数抱える事業者も多く、事業継続の厳しさがうかがえます。

一方で利用者にとっては、日常生活において、これまで通りに福祉有償運送が利用できなくなれば、一般のタクシーを使わざるを得ないことになり、外出を諦めて家に留まってしまう懸念があります。

移動の先にある楽しさ

横浜移動サービス協議会では、こうした状況を踏まえ、利用者の生活を豊かにする取り組みを始めています。それは、日常生活のための移動だけでなく目的がある移動の楽しさを知ってもらい、我慢したり引きこもらずに外出する意欲をもってもらう活動です。

アクティブエイジ事業(かながわボランタリー活動推進基金21助成事業)として、つながりのある団体と連携し、老若男女だれでも気軽に立ち寄れる「チャレンジ・ド・サロン」や、お出かけ企画といったサービスを用いて、利用者の出かけ先となる居場所やイベントを作り出しているのです。活動では、健常者と障害者が一緒に過ごし、その中で健常者が障害者の困り具合を知って、少し手伝えば一緒に遊べることを実感することもあるといいます。

事務所がある中区以外の地域でも、社会福祉協議会や企業などと連携し、同様の交流の場を提供するボランティア研修を実施し、お出かけ支援やバリアフリー探検などの利用者が外出する機会を増やしています。

最近では、新たな企画として、要支援者等の方に向けた介護予防・生活支援の活動にもなっているコミュニティサロン「アペリティーヴォ」を開催しています。山野上さんは「高齢者がいきいきとしている。高齢者が発語の難しい脳性麻痺の若者と知り合い、趣味があって2人とも楽しむ姿が生まれた。目指している共生社会が、作ったものではなく自然に生まれてきているという実感がある」と、その成果を語ります。

将来的には、こうした活動を更に発展させ、福祉サービスを手掛けるNPO法人として旅行業へ参入し、ユニバーサルツーリズムを提供することも視野に入れているそうです。これは、既存の旅行事業者が主催するものとは異なり、これまでの経験や連携する団体とのネットワークを活かした事業にするよう検討しています。

まずかかわってみてほしい

横浜移動サービス協議会は「共生社会は、弱者をみんなで支える社会ではなく、高齢者も障害者も全ての人々が、積極的に参加、貢献できる社会であるべき」と考えています。

移動サービスの課題である支援者の不足について、山野上さんは「通勤・通学が集中する朝の時間帯に対応する人が足りない。また、活動者が高齢化していることもあり、若い人にかかわってほしい。月1回でも週1回でもいいので手伝ってほしい。常勤でなくても人が集まれば色々なことが解決できる」と話します。

副理事長の山野上さん

アクティブエイジ事業が広がることで、まずは現役世代にかかわってもらう。その結果として「なんだ、それくらいならできそう」と感じ、かかわりを続ける人が出てくれば、その先に共生社会が実現できると期待しています。

最後に、コロナ禍の影響と今後の抱負について聞きました。山野上さんは「コロナ禍で団体としては影響があったが、他団体との意見交換などを通じて、新しいつながりがたくさんできた。皆が工夫して前に進もうと言い、実際に動きはじめている。楽しそうにやっている」とメンバーがこの事態を前向きに受け止めて活動している様子を語ります。

服部さんは、5年前に脳出血を起こして全くしゃべることができなくなりそこから回復したということで、理事長として復活している姿を周囲にみてもらうことが一番の役割だそうです。オンライン取材の画面の向こうで「とにかくみんなで楽しく。なるべく一人も欠けないようにやっていきたい」と堂々と話す姿をみて、団体として目指す共生社会が、ここでも実現されていることを感じました。

ボランティア・寄付のお問い合わせ

認定NPO法人 横浜移動サービス協議会
住所:神奈川県横浜市中区真砂町3-33 セルテ11F
電話:045-212-2863
FAX:045-212-2864
(平日10:00~17:00)
メール:info@yokohama-ido.jp
URL:http://yokohama-ido.jp/

※1 福祉有償運送(福祉有償移動サービス)とは、NPO法人等が他人の介助によらず移動することが困難であると認められ、かつ、単独でタクシーその他の公共交通機関を利用することが困難な身体障害者等の会員に対して、乗車定員11人未満の自動車を使用して、原則としてドア・ツー・ドアの個別輸送を行うもの
※2 横浜市福祉有償移動サービス運営指針(平成28年2月25日改正)10福祉有償移動サービスの対価(1)運送の対価 参照
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/fukushi-kaigo/chiikifukushi/yusho/fyu.files/0012_20180726.pdf
※3 PRI Review 令和2年度一覧 ・調査研究から「高齢者の移動ニーズに対応した旅客輸送サービスに関する調査研究(令和元年度 最終報告)本文」(国土交通省) p.102表5輸送サービスを継続する上での課題と短期の継続可能性 参照
https://www.mlit.go.jp/pri/kikanshi/pdf/2020/7778_7.pdf

(取材・文責:安田 純)

安田 純(やすだ じゅん)プロフィール

平塚市生まれ、川崎市在住。これから少子高齢化していく日本にはNPOの活動が大きな役割を果たすと考え、その実態を知るために2018年からNPOレポーターとなる。コロナ禍の中、初のオンラインによる取材活動に挑戦中。