みなさんはパラリンピックの競技を観戦したことがありますか。NPO法人国際障害者スポーツ写真連絡協議会(パラフォト)は、パラリンピックをはじめ、国内外で行われる障害者スポーツの大会を写真に収め、情報発信をしています。
現在のようにテレビなどで障害者スポーツが頻繁に取りあげられ、話題に挙がるようになる以前から、障害者スポーツ選手の姿を追い続けてきたパラフォト理事長の佐々木延江さんにお話しを伺いました。
障害者スポーツを発信するようになったきっかけ
佐々木さんは1998年に、長野で開催された冬季パラリンピックに出場したアルペンスキー日本代表選手の写真を見て、障害を感じさせない力強い滑りと落ちついた雰囲気に感銘を受け、パラスポーツのファンになりました。
取材活動の中で、オリンピック・パラリンピックのあとも長野県の自治体や競技団体、市民ボランティアが、一致団結してパラアスリートを支援する姿に出会い、周囲のパラスポーツに対する関心が薄れていくなかでも、パラスポーツが地域を活性化する可能性に気づきました。選手が試合に向けて練習する施設を充実させたり、定期的に大会を開いたりすることは、地域の賑わいにつながります。佐々木さんは、パラスポーツの取材活動を通してその楽しさやトップアスリートのかっこよさを知らせることで、人々のパラスポーツへの理解を深め、地域に浸透させようと考えました。
ジャーナリストとして発信
大手メディアが取り上げないパラアスリートの情報を市民の手で伝え続けようと、2000年にオーストラリアのシドニーで開催された夏季パラリンピックから情報発信を始め、翌2001年9月にNPO法人化しました。シドニー大会では、まだ知られていなかった車いすバスケットの試合を取材し、エールを送るウエブサイトでの写真や記事を残せたことで、「大手メディアではなく、市民が伝える意義を感じた」と言います。シドニー大会では、現地からメンバーが送ってくる写真や記事を日本で編集する役割を担っていた佐々木さんですが、2002年にアメリカのソルトレークで開催された冬季パラリンピック大会では、取材班を率いて現地入りしました。そして、大会の行われている国がどんなところなのか、大会ボランティアやオリンピックパーク外の街の様子や人々の反応も届けるようにしました。
パラフォトでは、勝敗やメダルの数がもたらすものだけではなく、選手や選手を取り巻く人や街の変化に注目した取材を心がけています。
佐々木さんは、「パラフォトの記者のなかには、元アスリートや取材のノウハウを心得たプロもいます。それぞれの経験を活かし、専門性と当事者性などを生かした自由な発信を大切にしています。そうした活動のユニークさが認められ、パラフォトでなければ取材できないような機会に恵まれることもあるのでは」と言います。
ウェブだけでなく写真展も
パラフォトは、ウエブサイトやSNSを使って、パラスポーツ大会の情報や選手たちの活動を伝えています。東京2020オリンピック・パラリンピックに向けては、Yahoo!JAPANの特設サイト「みんなの2020」(※1)やGoogleニュースイニシアティブと24のメディアがアスリートのコトバを紹介している「コトバのチカラ2020」(※2)にも、記事や写真を発信しています。
また、2018年から3年連続で、横浜中華街にある美術ギャラリーの協力を得てパラスポーツ写真展を開催しています。
直近では、「目と指で見るパラスポーツ写真」として、1枚のカラー写真を視覚情報だけでなく、指で輪郭をなぞれるように凹凸をつけたり、試合の音声を流したり、視覚障害者とともに鑑賞できるような試みもしました。
(※1)Yahoo!JAPAN みんなの2020(2022年3月28日現在は公開終了)
(※2)コトバのチカラ2020
https://powerofwords.jp/
パラスポーツで街づくり
20年以上パラスポーツの取材に携わってきた佐々木さんは、「今後は、取材の経験をもとに、あらたな選手の活動に出会い、地域の活性化につながるような活動をしていきたいです。共生社会の実現に貢献したい」と言います。
「少数のトップ選手にパラリンピック開催中の特別な期間限定で注目するのではなく、つねに誰でもトップアスリートを目指せるように、パラスポーツ選手を支える社会をつくりたい」と佐々木さんは強い眼差しで語りました。
また、「パラスポーツは、社会にある障害を知るためのきっかけにもなります。障害のある人との生活に役立つまでに、わたしたちにやれることはたくさんあります。共生社会へのきっかけに出会えてない人たちに、まずパラフォトの記事でパラスポーツのことを知り、競技観戦を楽しみながら障害がある人の暮らしに関心をもってもらえたら」と、今後の展望を話してくれました。
発信を続けるために
現在、パラフォトに記者登録をしている人は50人ほどです。活動の頻度は不定期で、大きな大会前は、それに向けた企画を立てます。記事は、5人前後のメンバーで作成しています。仲間と相談しながら進め、写真や映像撮影、文章作成、チェックなどそれぞれが得意な分野を中心に補い合うことで、経験のないクリエーターも成長の機会を得られます。
パラフォトには、経験豊富なベテラン記者から若手までメンバー同士が、意見交換をすることで、パラスポーツの専門的な記者を育て、パラスポーツの情報発信に貢献するという目的があります。
今後こうした仲間とともに「パラスポーツによる街づくりと言えるような地域イベントの取材と情報発信にも力を入れたい」という佐々木さん。理事長としての課題はやはり資金調達です。
佐々木さんは「私たちは、取材者の視点を生かした独自取材を大切にしています。そのため、取材計画は国内・海外に限らず自主的に立てることが多く、取材活動費は海外であっても自費がほとんどです。そのため、継続して取材を行うためには、資金面での支援が必要です」と実情を訴えます。パラフォトでは、取材プロジェクトごとに取材班を立ち上げ、資金協力を呼びかけています。「ホームページ内でこれまでの取材や新規に検討する取材プロジェクトにかける想いを紹介しているので、ぜひご覧ください」と協力を呼びかけています。
寄付・活動についてのお問い合わせ
特定非営利活動法人国際障害者スポーツ写真連絡協議会
ホームページ https://www.paraphoto.org/
Facecbook https://ja-jp.facebook.com/paraphotoclub
メール info(a)paraphoto.org ※(a)を@に変更
本田真弓 プロフィール
日本舞踊にダイビング、ワインやハーブの勉強に、読書、音楽鑑賞などなど。とにかく、多趣味な主婦。地元に暮らす人たちの想いを伝え、人と人を繋ぐような情報を発信できるライターになるのが夢。