相談を受けたら、最後までとことん対応する 認定NPO法人 多文化共生教育ネットワークかながわ

「外国につながる子どもたち」という存在を知っていますか? 国籍に関わらず、外国にルーツがあり、多様な言語・文化・価値観・習慣のなかで育ってきた日本国内に居住する子どもたちのことです。外国人の親と共に来日して暮らしている子ども、外国人の親のもと日本で生まれ育った子ども、海外に暮らす日本の親のもとに生まれ帰国した子ども、両親が国際結婚して2つの国にルーツをもつ子どもなど、背景はさまざまです。認定NPO法人多文化共生教育ネットワークかながわ(略称「ME-net」)は、1995年に設立以来、こうした外国につながる子どもたちに寄り添い、教育保障と社会参加への支援などを中心に展開してきました。「組織として直接機動する」という特徴を生かした取り組みついて、事務局長の高橋清樹(たかはし・せいじゅ)さんにお話をうかがいました。

全国初の高校進学ガイダンスからスタート

神奈川県横浜市栄区にあるME-netは、神奈川県内を中心とした、外国につながる子どもたちとその周辺の人たちに対して、必要な教育や多文化共生教育に関する事業を行い、多文化共生社会実現を目指した子どもの人権擁護、健全育成および社会教育の推進に寄与することを活動の柱としています。

スタッフ・サポーターは約300人で、大学生・地域の国際交流団体の代表・多文化共生に関する研究者・通訳など、さまざまな経歴の持ち主が所属しています。

Me-netの活動は、1995年、外国につながる子どもたちに対して、全国に先駆けて高校進学の支援として進学ガイダンスを行ったところから始まりました。当時、神奈川県立高校の教員だった事務局長の高橋清樹さんは、外国につながる子どもたちに向けた日本語教室の代表も務めていました。このつながりのなかでいろいろな団体のネットワークが緩やかに作られていき、活動がスタートしたのです。

Me-netサイトにある高校進学ガイダンスのページ

 外国につながる子どもたちの義務教育後の進路選択は、子ども自身や保護者の日本語理解や母国との環境の違いなどから厳しい状況に置かれています。そのため、発足当時から続けている高校進学ガイダンスは、ME-netの代表的事業のひとつになっています。2019年度は、川崎市・平塚市・大和市・横浜市・厚木市・相模原市の県内6ヵ所で実施。生徒、保護者482人が参加し、通訳・体験アドバイザー・高校教員・スタッフなど延べ484人が対応しました。

子どもとその家族に寄り添い、ときには食糧支援まで

神奈川県の「公立高校入学のためのガイドブック」

ME-netは、2019年に認定NPO法人として認定を受け、現在は12事業に拡大しています。神奈川県教育委員会との協働で「高校進学ガイドブック」を10言語に翻訳して作成したり、多文化教育コーディネーター人材を神奈川県内の25の高等学校へ派遣する事業を手がけたりしています。また、学校と協議しながら、子どもたちや学校が必要としている日本語支援、母語支援、教員研修など多文化共生教育の推進などの教育環境整備、さらに学習支援を行う「たぶんかフリースクールよこはま」の運営など、活動内容は多岐にわたります。2020年には、新事業として全国初の神奈川県立川崎高校内での日本語指導が必要な高校生向け放課後日本語学習支援教室及びプレスクールがスタートしました。 またME-netは、学習支援機関であると同時に相談機関でもあります。外国につながる子どもや若者のワンストップ総合相談センターを目指す「多文化子ども・若者支援センター」は、団体の中核と位置付ける事業です。居場所や学習教室を通して、日常的な相談から専門的な相談まで「子どもたちや若者たちそして家族まで寄り添いながらきちんと対応する相談窓口」として活動しています。センターは、2019年9月に、地域の支援団体4団体との連携により開設しました。

同センターには、深刻かつ専門的な相談が寄せられています。日本語の授業がカリキュラム化されていない学校に通っているため勉強についていけないケース、学齢オーバーや不登校の問題、高校進学後に学習面での遅れや人間関係に馴染めなかったりいじめにあったり、周囲の無理解などからサポートを受ける前に中退してしまうケース、在留資格に関する相談などが挙げられます。

同センターに相談したことで、無事中学校に編入することができた事例もあります。神奈川県大和市在住のAさんは16歳で、学齢オーバーのため中学校に入学することができませんでした。Aさんから相談を受けたME-netが大和市教育委員会に申し入れをした結果、教育委員会側が受け入れて、Aさんは地元の中学校3年生に入学することができました。在籍期間は4か月程度でしたが、その後卒業して県内の高校に通っています。

この家庭には、Aさん含め子どもが7人も生活しているうえに、親の収入が少なく生活が立ち行かない緊急度の高いケースだったため、ME-netでは進学面だけでなく食糧支援も行いながら、Aさんが高校に進学するまで寄り添い続けました。

高橋さんは「この子が学校で学び高校に入学してその後就職など将来を目指さないと、弟や妹たちへの影響が大きい。7人の子どもたちが、今後日本社会で活躍して、宝になるか埋もれてしまうかという切実な分かれ目に置かれています。日本社会は、外国人を労働力として受け入れていますが、その家族の生活権や『子どもたち』に対する意識が欠落しています。彼らを受け止める制度はまだまだ不充分だと思います」と話します。 ME-netでは、相談内容に合わせて、行政・教育委員会・学校・弁護士会・企業などと連携しています。一方、当事者に対してはきめ細かい配慮をしながら接します。例えば、相談者である子ども本人が日本語を理解できても、親はわからない場合は通訳を入れる場合もあります。状況が逼迫しているうえに言葉の壁が立ちはだかることで、やむを得ず進路を諦めてしまうケースが多いためです。このように、相談を受けた以上は、最後までとことん対応しています。

『ワンストップセンター』設立と『神奈川モデル』全国展開実現のために

ME-netが得意とするのは、行政との連携です。行政側にいろいろな申し入れを行う一方で、お互い協力し合って問題解決をしています。そして、行政が対応しきれない部分を、民間団体として、外国につながる子ども一人ひとりに寄り添う体制が行政側に評価されているそうです。

そこで今後は、行政のなかに『多文化子ども・若者支援センター』を設置してもらい、スタッフや運営ノウハウを導入した『ワンストップセンター』として、さまざまな相談を解決する仕組みを作る構想があります。高橋さんによると、実現すれば全国初となります。

更に、当事者だけではなく、学校や行政からも相談が受けられる機能を整備し、『神奈川モデル』として全国の各自治体に設置することを目指しています。『多文化子ども・若者センター』に関わった当事者同士の交流や、自分から発信できるプロジェクトを立ち上げるビジョンもあり、同センターのシステム拡充には寄付が重要な支援となります。 神奈川県教育局の資料によると、神奈川県公立の小中学校に通う日本語指導が必要な生徒は、2009年(平成21年)は3,100人だったところ、2020年(令和2年)には6,182人の199%増となっています。子どもたちの将来のためにも支援がますます重要になっています。ME-netでは、一口1,000円からの寄付を募っています。詳しくは、ME-netのホームページの「寄付のお願い」をご確認ください。

参考資料
神奈川県教育局支援部子ども教育支援課小中学校生徒指導グループ
http://www.pref.kanagawa.jp/docs/v3p/kokusai/kokusai-kyouiku.html

神奈川県公立学校 日本語指導が必要な外国籍児童・生徒数の推移
http://www.pref.kanagawa.jp/documents/12561/5_nihongosido-suii.pdf

寄付・活動についてのお問い合わせ

認定NPO法人 多文化共生教育ネットワークかながわ
〒247-0007
神奈川県横浜市栄区小菅ケ谷1‐2‐1 
地球市民かながわプラザ NPOなどのための事務室内
TEL&FAX:045-896-0015 
URL:https://me-net.or.jp
MAIL:info@me-net.or.jp

和田香世プロフィール

フリーランスライター。報道の現場で20年培った経験を地域に活かしたいと考え、市民ライターを志望しました。