ファンドレイジングとは「いかにして共感を獲得するか」。寄付は共感のバロメーター~ファンドレイジング・プロデューサー・イノウエヨシオさん


ファンドレイジング・プロデューサー・イノウエヨシオさん
東日本大震災を機に、寄付への関心と参加が高まり、ソーシャルメディアの台頭で、人々がこれまで以上に社会的な事柄に関心を抱くようになりました。このように、寄付に対する人々の意識に変化が起きている中、国や県なども寄付優遇税制など人々が寄付をしやすい環境を整え後押ししています。そうした今、神奈川県の「かながわ寄付をすすめる委員会」委員長で、ファンドレイジング・プロデューサーのイノウエヨシオさんに、寄付促進に向けた神奈川県の取り組みや、寄付をする意義などについてお話を伺いました。
-「かながわ寄付をすすめる委員会」の委員長をされていますが、委員会について教えてください
この委員会は、社会貢献に対する県民の興味・関心を喚起し、寄付促進に向けたNPO認知度向上の推進やNPO等に対する寄付促進の体制づくりなどを行うため、神奈川県に設置されたものです。受託された事業主体(NPOなど)と目的を達成するために連携したり、意見交換したり、まさに「自分で汗をかく」実行委員会ですね。
メンバーは、県内の中間支援組織の方や、ファンドレイジングの専門家、行政の人も委員として入っていてよい構成になっていると思います。こうしたユニークな存在自体が、県としての自慢というか、全国でも、先駆的な取り組みだと思います。ただ、昨年度は少し反省する点もあって、昨年度末には事業を再評価して、足らない部分については自主企画をたてたりしました。
-昨年の反省といいますと?
 せっかくの機会であるのに、各々の事業がバラバラで終わって、横のつながりというか、活用がうまくできませんでした。例えば認知度向上で電車の中にポスターを掲示したり、新聞広告やコンビニに協力してもらってパンフレットをおいたり、情報発信の「かなチャリ」を開設したりしていましたが、肝心のNPO自体がそれを知らなかったり、うまくその好機を活用できていなかったりしました。そのため、委員自らで分担して3回の共感実践セミナーを開催して、その活用方法などアピールを行いました。
2年目は、各事業の調整をはかり、横の連携や相互協力をはかってうまく活用できるよう、サジェッションしたり結びつけたりすることに力を入れています。また事業者のみならず、単体ではできないことを、特にこの機会に地域にいるNPOと協働して、かけ算となって市民に発信していけるようにもっと仕向けていきたいと取り組んでいます。
-寄付促進のための神奈川県の取り組みについて教えてください。
民間から民間への寄付の流れをもっと増やしていこうとするローカルルール「条例指定による新NPO法人制度」が県単位で導入されたのも、神奈川県が最初です。いま、私たちは認定を受けた団体に寄付して確定申告すると、住民税などが最大50%近く戻ってくる。この面では、日本は世界で最も進んだ制度を手に入れたのです。
また、「新しい公共」の多様な担い手の拡大と定着を後押しする「新しい公共支援事業」が47都道府県で昨年、今年と実施されていますが、とりわけ神奈川県の取り組みは、考え方も事例も、他県になく、抜きん出たものが多いですね。
全国第2位の人口で3つの政令指定都市をもち、都会の部分と地方の部分を併せ持つため、神奈川県には、実に多様性に富んだNPOが存在して、自分たちの街は自分たちで良くしようと考えている意識の高い方がたくさんいらっしゃるなあと感じています。
-昔から日本には、寄付文化というものはあったのでしょうか?
今まで、日本では寄付文化がなかった印象がありますが、実は寄付文化は昔からあったのです。例えば、明治維新を迎え、都が移り、戦乱の焼け野原だけとなった京都で、これからをどうしようと考えた町衆が、寄付で町内ごとに小学校を造ったり、関東大震災(1923年)で壊滅的になった関東を何とかしようと、復興院の後藤新平さんに呼応して、経済界の重鎮・渋沢栄一さんが『民』の力を結集し国内外から多くの寄付を集めた話とかが残っています。また神奈川県の中でも寄付でできた街並みや、ユニークな寄付事例を持つNPO、そして市民ファンドが多い等、私自身、全国で講演させてもらっていますが、つくづく神奈川県は先駆的な取り組みを今も受け継いできている地域だと思っています。
-NPOがファンドレイジングを進めるためのポイントとは?
NPOは社会的課題を解決するために存在しています。社会的課題の専門家として、どんな解決策を持っているか、それを伝えることが大切です。
ファンドレイジングとは、「資金調達」と訳されますが、団体が活動に必要な資金を調達するすべての活動のこと。つまり、広報や寄付集め、支援メニューの設計、自主事業や、助成金の申請などすべてを指します。
NPOも単に「お金を下さい」ではなく、自分たちに託してもらえれば、「こういう解決策に取り組めます」と提案するとか。何のためにいくらあればよいかなど、わかりやすい指標があるといいですね。同じ1万円でも寄付には人々の想いが託されているので、NPO側も「応援していただいてありがとう」と嬉しくなる。つまり、ファンドレイジングとは「いかにして共感を獲得するか」。寄付は、共感のバロメーターなのです。

-私たちが寄付をすることは、どんな意義があるのでしょうか?
寄付は、その団体に対して活動基盤を資金的に支援するだけでなく、それを元にしてNPOが社会的課題の解決を図るので、積み重なるとやがて社会が変わっていきます。だから、寄付は、その課題と解決策に共感した市民が、社会を変えるための方法、社会に参加する方法の一つでもあるのです。
-それでは、私たちができる具体的な社会貢献とは?
今、日本では社会の役に立ちたいと感じている人は7~8割もいて、これは過去最高の割合です。しかし、実際にNPO団体に所属したり、ボランティアを始める人、あるいは実際に金品を寄付する人というのは3~4割に留まっていた。この間を埋めるのは、商品を購入しての社会貢献だったり、プチ・ボランティアだったりするわけです。
神奈川県には身近なところで活躍する、実にユニークな取り組みをしている団体がたくさんあります。物品寄付、イベント参加、グッズを購入するなど気軽に始められるところから、まずやってみて、その中で続けて応援したい団体を見つけていっていただければと思います。ぜひ、みなさん、それぞれができることで、社会を変えるために、ぜひ身近なアクションを起こしてほしいと思います。
◆イノウエヨシオさん プロフィール
新規事業の立上げ支援や新商品開発を通じ、独自の視点からの企画提案に高い評価を得る。また、小学校時代から参加のボーイスカウト活動をベースに各地で活躍。幼児向けテレビ番組では「自然と遊ぼう」をテーマに環境教育の指導や子ども向けワークショップなどを行う。数多くの団体でのボランティア活動や異業種交流会等を主催して幅広く交流。作成したビデオが夢と感動の「第1回ドリームプランコンテスト」で、共感大賞を受賞するなどの経歴をもち、現在では、「熱く夢を語る人生を」と様々な企業や団体との共感拡大のためのコラボレーションで活動の輪を広げている。2日間で3.5万人を集める愛フェスをはじめ数々のファンドレイジング・イベントの仕掛け人として活躍する一方、NPO向けの「共感CM」づくりでは全国で370を超える団体の指導に当たり、志金循環などの研修の参加者は年間3,000名にも及ぶ。かながわ寄付をすすめる委員会の委員長を始め各種審議会の委員などもつとめる。
【関連リンク】
▽新しい公共支援事業について
https://www.pref.kanagawa.jp/documents/23113/470165.pdf
▽平成24年度 新しい公共支援事業「新NPO法人制度」普及プロジェクトの実施事業(かなチャリ・NPOニュース)
https://kanachari.jp/blog/3158.html