子どもも大人も一緒に ソーシャルインクルーシブなまちづくり  NPO法人ミニシティ・プラス

子ども発のまちづくりの活動を展開するNPO法人ミニシティ・プラスの活動拠点であるコミュニティカフェ「シェアリーカフェ」(横浜市都筑区中川1)に、同法人理事の杉山昇太さんと岩室晶子さんを訪ね、子ども発のまちづくりの魅力についてうかがいました。

ミニシティ・プラスのはじまり

同法人が設立された2006年は、子どもの育成、支援、保護を目的に掲げた条例(いわゆる「子ども条例」)を制定する自治体が増え始めた時代です。
国連の子どもの権利条約採択(1994年)、ユニセフによる「子どもにやさしいまちづくりのための行動枠組」(2004年)の公表を受け、子どもの権利条約を子ども支援やまちづくりに活かし、青少年対象の施策に子どもの権利の視点を盛り込んで展開できるようにするための動きでした。
このような時代背景の中、ドイツで行われていた「ミニ・ミュンヘン※1」に、当時、中区役所の統計選挙係長だった杉山さんらが「面白そう、横浜でもやってみない?」と、周囲に声をかけて、同年10月にNPO法人の前身となる「ミニヨコハマシティ研究会』を立ち上げました。横浜市こども青少年局等を含む、横浜市職員有志と、岩室さんが理事長(当時は事務局長)を務める「NPO法人 I Loveつづき」有志・研究者・こどものまちに関心のある市民など様々な背景を持つ大人50人ほどが集まりました。

※1: 7~15歳の子どもだけで運営する仮想都市。2年に1度、夏休みの3週間だけドイツのミュンヘン市に誕生する。1979年(国際児童年)に開始。

ミニヨコハマシティ

翌2007年3月に開催した「こどもが創るあそびのまち」は、NHK全国ニュースや新聞各紙で取り上げられ、同年10月のシンポジウム「ミニヨコハマシティが生まれる」等を通してさらに多様な人に多くの共感の輪を広げました。手ごたえを得た岩室さんたちは、子どもたちの「またやりたい!」をつなげ広げようと、2008年5月にNPO法人ミニシティ・プラスを設立しました。
ミニヨコハマシティのキャッチフレーズは、「大人口出し禁止、19歳以下のこどもがつくるこどものまち」。1人で参加できる子どもであれば誰でも参加でき、これまでの最年少は4歳だといいます。毎年1回の開催で、2018年3月31日には、横浜市都筑区役所で11回目を迎える「ミニヨコ」開催が目前に迫っています。

ミニシティ・プラスの発展

2010年からは子どもが記者になって、都筑区内のさまざまな情報を取材して発信する新聞「つづきジュニアタイムズ」を作る「つづきジュニア編集局」プロジェクトを開始。2018年まで毎年1度、2万5千部を印刷し、都筑区内の全小中学校に配布しています。
2013年からはまちづくりについて研修を受けた子どもを地域に派遣し、大人と一緒にまちづくり活動に取り組む『特命子ども地域アクタープロジェクト』も開始。子どもの「やりたい」を受けてミニシティ・プラスはその活動の場を広げてきています。

参加者の声

訪問した日はちょうど「特命子ども地域アクタープロジェクト」の2017年度活動の振り返りの日。54人の子ども地域アクターのうち、19人がシェアリーカフェに集まりました。
参加者の1人、今年初めて参加したという高校1年生の鳥羽美月さんは、この活動の魅力を「やることの幅が広く、考えるのが面白い」と語ります。
今年の派遣先全11カ所のうち、山北町の空き家対策、川崎市宮前区のフォトコンテスト、大和市の千本桜商店会の3カ所に出向き、大人と一緒に町の魅力を伝えるまちづくりイベントを企画しました。
もともと観光が好きだった鳥羽さん。「どの派遣先での体験も甲乙つけがたいほど面白かったので、色地域の魅力を伝えるまちづくりに携わりたいと考えるようになりました」と、明るいまなざしで、将来の夢がより具体的に深くなったことを教えてくれました。

活動で大切にしていること

これらの活動で大切にしていることは「主体性、多様性(ダイバーシティ)、創造性(クリエイティビティ)」だと杉山さんは言います。
「子どもの主体性に任せていると会議が散漫になって何も決まらないのでは?」と、毎日子育てに苦闘する親の少し意地悪な質問をぶつけると「それが、子どもたち、決めるのが速いんです」と岩室さんから笑顔で返ってきました。
今日決めることを提示し、付箋を配布して、それぞれが意見を書いて壁に貼り、みんなで一つずつ見ながら意見をまとめていく方法をとり、全員の意見を漏らさないようにしているとのこと。ミニヨコハマシティの例で先に触れた4歳の子は、字が書けなくても年上の子どもに代筆を頼んで意見を出し、主体的に参加していたそうです。
杉山さんは「別に散漫になって、決まらなくてもいいじゃないですか。大人も同じですよ。去年と同じことしても面白くない。はみ出てほしい」と続けました。
ミニヨコハマシティ初回の告知には「なんどでも作りなおせる『まち』だから、失敗したってだいじょうぶ。実験!冒険!なんでもやってみよう!この『まち』はあそびながらつくる『まち』だよ」とあります。
失敗も楽しい未知の遊びへの様々な試行錯誤が、子どもたちの変わらぬワクワクと達成感につながっています。コーディネートやサポートにまわる大人も毎回新しい発見を得て、よりよいまちづくりの地力が養われるのでしょう。
ホームページに載っている理事・会員の名簿を前にして「この人は初代から3回の市長でこの2人も卒業生。この高校生会員も市長」と岩室さんが次々に指差して教えてくれました。
どんな子どもも主体性を持って、多様な意見を取り込み、じぶんたちのまちを創造する活動に参画できるよう、大人も毎回一から一緒に考えて作り上げる、ミニシティ・プラス。実際に体験した世代から次の担い手が表れていることからも、この活動の面白さと持続性が感じられました。

こどものまちを広げていくために

2017年のミニヨコハマシティの当日参加者数はミニシティ・プラスの発表によると約1,000人(うち保護者、幼児等400人程度)。募集エリアを限定していないことから一概に語ることはできないかもしれませんが、仮に都筑区の6~19歳の人口35,092人1を母数にとり、幼児を除く子どもの参加者数600人で計算すると、およそ1.7%の参加率になります。

※1:(横浜市統計ポータルサイト 都筑区年齢別人口(https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/yokohamashi/tokei-chosa/portal/jinko/nenrei/juki/h29nen.html 2017年1月1日現在)より)

1.5~1.7%というと、1クラス36人計算で2~3クラスに1~2人いる程度。もっと多くの子どもがミニヨコハマシティに参加できるようにするために、「自治体が負担する形が望ましいのですが」と、杉山さんは認識しています。それは、この事業を通してまちづくりの楽しさ・参加する充実感を感じた子どもたちが増えることが「まちの未来を担う子どもたちへの投資」になるという手ごたえがあるからかもしれません。
静岡市にはこどもクリエイティブタウン「ま・あ・る」という市営の常設施設もあることを教えてくれました。
神奈川では、2018年2月11日に『かながわ子ども合衆国』会議が開催され、こどものまち(かながわ子ども合衆国のサイト(http://kanagawa-kids.jp/)では「キッズシティ」と表記)を神奈川県全圏域に普及させるため、県内のこどものまちの運営団体が集まりました。これからの広がりが期待されます。
2018年3月31日(土)には11回目となるミニヨコハマシティが都筑区役所とその周辺で開催されます。http://minicity-plus.jp/?page_id=470
未来へつながる実験や冒険があふれるこどものまちへ、ぜひ遊びに行ってみてはいかがでしょうか?
参加できるような年頃の子どもがいない人も、寄付で活動を支援することができるので、この活動に興味・共感を覚えた人はこちらのページを訪れてみてください。
寄付のお申し込みフォーム:https://minicityplus.secure.force.com/

団体情報

NPO法人ミニシティ・プラス

住所: 〒224-0001 横浜市都筑区中川1-4-1 ハウスクエア横浜107
電話: 045-306-9004
URL: http://minicity-plus.jp/

野村美湖 プロフィール

結婚を機に川崎に住み17年、中2、小5、幼稚園年長の3女児の母。7年間のワーキングマザーの後、2011年、三女の出産を機に退職。「子どもと一緒に社会を再発見」をテーマに、産経リビングウェブ横浜の地域特派員レポーターなどの活動を経て、2017年より神奈川県の市民レポーター活動を開始。