横浜に残る谷戸「瀬上沢」を次世代へつなぐために。 認定NPO法人「ホタルのふるさと瀬上沢基金」

認定NPO法人「ホタルのふるさと瀬上沢基金」は、横浜市栄区上郷町に残るまとまった緑地(約32ha)として市民に親しまれ、史跡も残る「瀬上沢」を、未来の市民に残すための活動をしている団体です。

 瀬上沢地区はほとんどが私有地です。東急建設(東京都渋谷区)が約31.9ヘクタール(東京ドーム7個分)の緑地のうち、約3割にあたる12.5ヘクタールの開発を計画しています。同基金としては「2度目の開発の危機にさらされている」と考え、この私有地の買取りを目指し「瀬上沢の森を守ろう!寄付者1万人アクション」を続けてきました。2012年に寄付者1万人を超えましたが、現在も合計1000万円を目指し、寄付を募っています。

2018年3月には開発の可否が決定される予定で、他団体とも協力して、2017年10月23日から12月10日にかけて署名活動等を展開しました。これは、今回の都市計画案について「市民の賛否の意思を明らかとし、もって栄区上郷町周辺都市計画案に市民の意見を反映する」ための住民投票条例制定を求める目的でした。

署名数は総数36,441人(有効35,978、不備463人)で、住民投票条例制定請求条件の62,000人には到達しませんでした。このため住民投票条例を制定することはできませんでしたが、基金では、設立以来続けている「瀬上沢」の魅力を伝え、森の維持をしていくための活動をこれからも続けてきます。

角田東一さん理事長である角田東一さんに、その地道な活動と「瀬上沢」の保存にかける思いについて話をうかがいました。

角田さんたちが設立当初から続けている活動として、「瀬上沢クリーンアップ作戦」、「瀬上沢ガイドツアー」があります。どちらも港南区や栄区の区民のみならず、鎌倉市など周辺の市からも参加する人がいます。この緑地が横浜市民だけでなく行政区域をまたいだ周辺自治体の人たちにとっても「貴重な憩いの場」である反映かもしれません。

また、2017年6月からは「瀬上沢遺跡ガイドツアー」もはじめ、主に開発予定区域に残されている文化遺跡を案内するこのツアーに力を入れています。

これらの活動は、もちろん大人だけではなく、子どもたち向けのものも企画されています。

夏の「瀬上沢ガイドツアー」では、市民ガイドと子どもたちが一緒に瀬上沢を歩き、生物に直にふれあいながら、自然や生態系について学ぶツアーを企画し、毎回約30~40人の参加者がいます。また、近隣の学校で行われる生物や環境の学習や研究のサポートもしているそうです。

実際に角田さんに現地を案内してもらうと、夏にはトンボやホタルが見られる沢があったり、水がしたたり落ちる湧水池があったり、横浜という大都市の中に「自然の宝」があちこちに点在していることを体感できます。

また、文化遺跡ツアーでは、約1300年前の製鉄の遺跡や約160万年前にこの地が海だったことを示す貝の化石、江戸時代の抜け道、田んぼ跡など、人と自然が共存していた歴史を知ることができます。

「瀬上沢」を残したい理由

 角田さんは、「瀬上沢を守りたい」その理由について説明してくれました。

1点目は「横浜市内各地にあった谷戸の姿を後世に伝えたい」という思いです。横浜市には、本来たくさん谷戸がありました。地名にも「八軒谷戸」や「七里谷戸」などとして残っていますが、現在「完全な形で谷戸が残っている場所は、瀬上沢のみではないだろうか」と、横浜全域にとっても貴重な場所であると角田さんは考えています。

さらに「貴重な遺跡も残っており、横浜の歴史が学べる」と、学びの場として活用しながら残していきたいと話す。

三方が丘陵台地に囲まれる典型的な谷戸
三方が丘陵台地に囲まれる典型的な谷戸

 2点目は「地球温暖化を防止したい」という理由です。

角田さんは「地球全体も、この100年で0.8℃平均気温が上昇していると言われているが、横浜市は、2.8℃も上昇している。これは、やはり温暖化の原因の一つであるCO2を吸収する緑が少ない都市であることを物語っている」と、横浜が「暑くなっている」ことを指摘します。

 また、環境創造局の調査によると、40年前には緑被率が50%ありましたが、2014年には28.8%まで減ってしまいました。また、横浜市環境科学研究所の調査によると、2017年の調査ポイントのうち、熱帯夜は最多で37日でした。しかし、緑地が残っている栄区の瀬上沢付近と緑区の新治付近は約10日間。都市で快適に暮らしていくためにも、都市に残る緑地の保全は欠かせないことを物語っています。

・平成29年夏の横浜市内の気温観測結果https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/koho-kocho/press/kankyo/2017/20170926-020-26123.files/0001_20200728.pdf

3点目は「良くも悪くも、瀬上沢の開発が、全国の自治体の緑地開発の試金石となる」という思いがあるからだそうです。

多くの自治体で近い将来人口が減少していくなかで「緑地をつぶして開発する」事業は、全国的にあまり行われなくなっています。「もし今回、横浜市が瀬上沢の開発を認可すれば、逆に日本の緑地開発の先進事例となってしまう」と角田さんは懸念しています。

最後に、角田さんが一枚の絵「SEGAMIむかしみらい図~ヒトと生態系と未来の横浜のために~」を見せてくれました。緑地が残ることと開発されること。どちらが市民に還元されるものが多いのでしょうか。未来の市民に残すべきものは何なのでしょうか。

難しい問題を含んでいますが、「ホタルのふるさと瀬上沢基金」の活動は、未来の子どもたちのために、考え続けること・行動することの大切さを教えています。

編集部追記)2017年1月17日に開催された「第147回横浜市都市計画審議会」で、「栄上郷町猿田地区関連・瀬上自然公園」関連案件は可決されました。http://www.city.yokohama.lg.jp/kenchiku/kikaku/cityplan/tokeishin/ankenhyo-147.html

イラストマップ
HP:Save SEGAMI http://savesegami.com/preserve より抜粋

寄付・活動についてのお問合せ

認定NPO法人 ホタルのふるさと瀬上沢基金

理事長 角田東一
電話・FAX番号:045-832-9167
E-MAIL:segamikikin@gmail.com
HP: http://www.segamikikin.org/

國師裕紀子(くにしゆきこ)プロフィール

横浜市在住。横浜市民となっておよそ1年。それまでは、転勤族の夫について各地を転々とする。小学生の男の子2人の母。長男がトンボ大好きになったことをきっかけに、子どもとともに自然系の市民活動に参加している。