地域のニーズに応える福祉のカタチ 認定NPO法人 ぐるーぷ藤

「『いのち輝く神奈川』、『マグネット神奈川』、この意味をもう1回噛みしめていただきたいなと思います」
神奈川県の黒岩祐治知事は2018年1月4日の仕事始め式の訓示でこう語りました。(神奈川県ホームページ「神奈川県知事のページ」よりwww.pref.kanagawa.jp/cnt/chiji/p1204420.html
黒岩知事がテーマとしている「いのち輝くマグネット神奈川」という言葉を具現化したような施設が藤沢市にあります。
福祉マンションなどを建設・運営する認定NPO法人「ぐるーぷ藤」(藤沢市藤が岡1-4-2)を訪ねて、理事長の鷲尾公子さんに話をうかがいました。

突き動かした“思い”

鷲尾公子理事長ぐるーぷ藤は、鷲尾さんを含む主婦5人の呼びかけで始まりました。きっかけは鷲尾さんの母親の介護です。介護の大変さを身をもって体験した鷲尾さんは主に女性が担っていたケア労働を社会化するため、1992年に前身となる組織を立ち上げ、主婦仲間が相互に助け合う訪問介護事業を始めました。1997年に介護保険法が制定される以前、まだまだ「嫁」や「娘」が介護することが当たり前だった時代です。
「何の知識もなく、お手本もありませんでした。」鷲尾さんはそう振り返ります。突き動かしたのは「地域に必要な福祉サービスをつくりたいという“思い”だけだった」といいます。その後、鷲尾さんたちは、1999年にNPO法人格を取得しました。

市民の思いが結集した福祉マンション建設ファンド

玄関前に掲げられる武田双雲書の「希望」の文字

訪問介護事業を運営するうちに鷲尾さんは、利用者が最期の時まで安心して住むことができる「終の住処」が必要だというニーズを感じるようになります。
それも、お年寄りだけでなく、子ども、障がい者まで「誰もが住める福祉マンション」というコンセプトの建物を作ることを決めた鷲尾さんの思いは、前例のない方法で実現されました。それは建設資金(注1)を市民出資のファンドによって集めるというものです。
2005年に設定したそのファンドは、元金が戻ってくる保証がないにもかかわらず、ぐるーぷ藤の活動が担保とされ、48人もの人から支持され、目標の金額をわずか2か月で達成しました。
鷲尾さんは「地域のニーズに応えることが必要なのです。」とはっきりとした口調で繰り返します。その思いが市民出資の福祉マンションの実現へと繋がったのです。
2007年に福祉マンション「ぐるーぷ藤一番館・藤が岡」(藤沢市藤が岡1)(注2)が開設されました。このマンションは同じ建物内に高齢者住宅のほか、訪問介護事業所・看護小規模多機能型居宅介護・精神障がい者のグループホーム・幼児教室(別事業者が運営)・レストランなどさまざまな施設が併設されています。このような施設は、建設当時は「日本で初めて」とのことでした。
介護事業所と幼児教室が同じ階にあるため、高齢者と子供が触れ合うことができます。核家族化によって高齢者と接する機会が少ない子供にとっては貴重な体験です。まさに黒岩知事が語ったような“輝くいのち”が“マグネット”のように引き寄せあっているのです。
「地域のニーズに応えて必要なものをすべて入れたらこのカタチになりました。」と鷲尾さんは語ります。
2016年には2番目の福祉マンションとなる「ぐるーぷ藤二番館・柄沢」(藤沢市柄沢)(注3)が開設されました。そしてこれから三番館の建設も予定しているといいます。
「私たちは、5人の主婦の『手漕ぎボート』から出発しました。それは二番館でクイーンメリー号となり、三番館でクイーンエリザベス号となります。それが目標でした」。手漕ぎボートが英国女王の名を冠した豪華客船となり、船が行き交う場所も、小さな湾から大海原へと変化してきました。この変化はぐるーぷ藤が「地域のニーズに応える」という目標を揺るがすことなく、長い航海を経てきたからこそのものでした。

レストラン「オハナ」のランチ 800円(税別)

オープンな組織が人を呼び寄せる

最近は人手不足が社会問題になっており、特に介護分野の2017年の有効求人倍率は2.59と人手不足が顕著になっています。(厚生労働省「職業安定業務統計」より)
しかし、ぐるーぷ藤は「人手不足とは無縁」だといいます。その理由をたずねると「今働いている職員が、自分の仲間を呼び寄せてくれる」のだといいます。鷲尾さんはその理由を語りました。
「私たちは組織の重要案件を独断では決めません。みんなで会議し、話し合います。お互いに市民だからこそみんなで話し合います。」
理事長の報酬も職員とともに決めるシステムをもっています。こうしたオープンな組織だからこそ人が辞めないのです。
関連して株式会社とNPO法人の違いについて聞いてみました。「株式会社は株主のものであり、株主の利益を追求することが目的でしょう。NPO法人の目的は地域のニーズに応えること、そして働いている人の生活を守り、給料をしっかりと出すこと、そこが違いだと思うのです。」

地域に役立つ働き方

最後に、神奈川県に住み、暮らす人たちへのメッセージをうかがいました。
「私たちは『地域に役立つ働き方』を目指してきました。自分の親族のように入居者や関わる人たちに接する、それが『市民目線』というわたしたちの仕事の姿勢です」。「市民が応援団となってくれた」と、鷲尾さんの原点を忘れない言葉は熱を帯びていました。
この施設を利用したい・働きたい・寄付したいという方はぜひ、ぐるーぷ藤のサイトを開いてみてください。

(注1)建設資金総額約5億円のうち、資金は3つのルートから集めました。ファンドから9900万円、ぐるーぷ藤の利用者であり活動に共鳴してくれた人が低利で6000万円の融資、残りは横浜銀行からの借り入れでした。
(注2)「ぐるーぷ藤一番館・藤が岡」建物概要:鉄骨造、4階建、延床面積1454.60㎡ 居室概要:高齢者住宅21室、精神障害者グループホーム6室
(注3)「ぐるーぷ藤二番館・柄沢」建物概要:鉄筋コンクリート造、4階建、延床面積1721.82㎡ 居室概要:高齢者住宅48人(44室)

団体情報

認定NPO法人 ぐるーぷ藤

所在地:藤沢市藤が岡1-4-2
TEL:0466-26-2001(時間外:090-7015-7062)
FAX:0466-26-2002
URL:http://www.npo-fuji.com/
(取材・文 鹿島洋一)

鹿島洋一 プロフィール

1976年生まれ。幼少時に血友病と診断され、1990年代に社会問題となった薬害事件の被害者となり、“生と死”の問題に向き合う。現在は医療の進歩により、日常生活に問題ないため、ピアサポーター活動やNPO市民レポーターとしての活動を始めている。