「あったら、いいな」を地域の「いいね!」に  NPO法人ぐらす・かわさき

既存の企業や行政だけでは対応しきれない地域課題に対し、市民が自ら課題解決することを目的にした事業をソーシャルビジネス(SB)またはコミュニティビジネス(CB)といいます。

川崎市の委託を受け、「川崎市ソーシャルビジネス振興事業」として、SBの人材育成や相談支援を行っているのが、県内で老舗の中間支援組織であるNPO法人「ぐらす・かわさき」(川崎市中原区新城)です。

今回は、そのSB振興事業に焦点を当て、ぐらす・かわさき事務局スタッフの大澤洋子さんに話をうかがい、2017年9月30日に開催された、ソーシャルビジネス講座の最終回を取材しました。

 カフェを兼ねた地域の交流・チャレンジ拠点「メサ・グランデ」

 JR南武線の武蔵新城駅近くの住宅地に「ぐらす・かわさき」が運営する「地域活動支援センターメサ・グランデ」があります。川崎の地元野菜を使ったランチの提供や、地域農家の野菜の販売をしているカフェであると同時に地域活動支援センターとして、障がいのある方の日中の居場所ともなっています。

毎月第3木曜日は、地域食堂「めさみーる+(プラス)」という、いわゆる子ども食堂を開催、家庭や企業からの食材の寄付と地域のボランティアの方たちに協力をしてもらいながら運営をしています。

 土日祝日は、コミュニティカフェなど飲食業でSBやCBを考えている市民を対象に、レンタル・キッチン&スペースとして「お試し営業」の場所を提供するなど、地域のスタートアップ活動拠点としての機能も担っています。 

1980年代から90年代にかけて、川崎市で教育問題や環境問題に取り組む地域活動家の人たちが出会い、共に活動を続けて行く中で、地域活動を担う若い後継者がいないことに危機感を持ちました。「地域の人々が、日々の暮らしのなかで気がついたことを持ち寄り、語り合うことによって解決策を見出していく、そんな場があれば、自分たちのまちが住みやすくなる」という活動理念から、2001年「ぐらす・かわさき」が設立されました。

現在スタッフは、14人。設立から15年以上経過し、当時のスタッフが、世代交代の時期に来ています。2017年6月に事務局スタッフとして採用された大澤さんは40代。「設立の時に作った基盤をさらに活かしていくことが、私の任務なのかもしれません」と話していました。

 ソーシャルビジネスを目指す人材を支援

「ぐらす・かわさき」では、それぞれの市民が描くこうした「願い」をビジネスとして継続できるよう「コミュニティビジネスを支援するための事業」を実施して、人材を育成しています。

また、ここ数年は川崎市からの委託で「川崎市コミュニティビジネス・ソーシャルビジネス振興事業」を実施しており、その一環として「思い」を事業計画という見える形に作り上げる、初級ソーシャルビジネス連続講座「地域や社会に貢献できるしごとのはじめ方セミナー」を2017年度は全5回開催しました。

「それぞれの「思い」があっても、事業計画書として形にすること、そして実際に動かないと何も変わりません。SB・CBの連続講座や交流会などに参加して、いろいろな人とのネットワーク作ることが非常に大切です」と大澤さん。

参加者は、講座で学びながら自分の事業計画をまとめていきます。そして取材当日の最終回には、参加者それぞれの「思い」を計画書の形にし、事業計画を発表しました。長年有名デザイナーのパタンナーを務めた方による「思い出の洋服をリフォームする店を出したい」という事業や「地域の子どもから高齢者までが世代間交流できるスペースを作りたい」「共働きの子育て世帯に向け子どもの放課後サポートなどを行いたい」など、参加者が今思う課題実現に向け、熱い思いを発表していました。

各自の発表の後に、参加者がお互い共有できることがあるなど、コメントの記入と意見交換を行っていました。川崎市経済労働局の宇都宮健浩さんから、創業時に必要な資金調達手段となる、補助金や融資などの情報提供がありました。またSB事業者向けにメルマガを配信するなど、川崎市経済労働局がSB事業者をバックアップする体制についても説明がありました。

2016年度に川崎市経済労働局と「ぐらす・かわさき」が行った、「地域課題解決ビジネス(コミュニティビジネス・ソーシャルビジネス)実態調査」※1によると、川崎市内には800を超える地域解決型事業者があり、ジャンルとしては高齢者福祉事業(47%)障害者福祉事業(38%)子育て支援(19%)となっています。また、現状課題としては、人材不足(56%)事業収入が少ない(45%)情報発信ができない、PR不足(23%)となっています。

このようにSB事業の多くは、人材不足や事業収入が少ないことが、活動を維持・継続していく上で大きな課題となっています。そこで「ぐらす・かわさき」では、SB事業継続の相談対応やSB事業者向けのセミナー「経営課題解決ゼミナール」なども開催しました。

参加者の事業発表の後、講師をはじめ参加者全員で意見交換をすることから、共感・連携できる部分を共有する。そして事業アイデアが広がっていきます。

SB・CB連続講座は、毎年15人前後の参加者がいますが、講座修了生で実際に起業までに至るのは、年間1人いるかいないかと現実は厳しい状況です。川崎市がSB・CB事業者育成に力を入れている理由はどこにあるのでしょうか。

同市としては「行政や民間企業の力だけでは、地域の様々な社会課題の解決まではできません。そこで、住民主体のまちづくりをすることにより、地域の課題解決はもちろん、新たな雇用創出や生活価値の向上ができます」という認識があり、重要な地域資源としてのソーシャルビジネスを支援しています。

ひとりの力では、人材不足や資金面の問題で解決が難しい地域課題も、事業化を目指す仲間とのネットワークが構築され、課題解決へ向けて動き出す。SB振興事業は、ひとりの「あったら、いいな」から始まり、地域の中でつながりから、「いいね!」へと広がる、地域に密着した活動を支援する事業でした。

※1:「地域課題解決ビジネス(コミュニティビジネス・ソーシャルビジネス)実態調査https://www.tsuna-good.city.kawasaki.jp/report/191

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 特定非営利活動法人ぐらす・かわさき

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Mail:info@grassk.org 

田﨑直子 プロフィール

医療と福祉・介護の現場で看護師として25年ほど勤務の後、フリーランス・ナースで開業。人生の羅針盤~自分の最期(医療・介護)を考える、アドバンス・ケア・プランニングを実践する活動を模索中。