江の島に「風を感じる」ボランティア、あります

江の島でセーリングを楽しむ

2018年10月6日、NPO法人セイラビリティ江の島が主催する小型ヨット「ハンザ」の体験乗船会が開催されました。ハンザは、安全で誰でも簡単に操作ができるヨットなので、老若男女、障害の有無を問わず、誰でも参加することができます。体験乗船会は4月~10月の期間中30回程開催されていて、毎年600人以上の人々が江の島でセーリングを楽しんでいます。

NPO法人 セイラビリティ江の島

セイラビリティ江の島は、広くどんな人にもセーリングの楽しさを知ってもらうことを目的として体験活動を行っており、2006年にNPO法人として活動を開始しました。ハンザの体験乗船会の開催、ボランティアインストラクターの養成、そして高齢者や障害者を対象としたハンザ乗船のクラブ活動といった取り組みが、会員によるボランティア活動によって運営されています。
ハンザの体験乗船は2004年、江の島で始まった活動です。1964年の東京オリンピックセーリング日本代表で、当時江の島ヨットクラブの会長だった松本富士也さんが、セーラーをもっと増やしたいと考え、神奈川県や、日本セーリング連盟および神奈川県セーリング連盟、ブルーシー・アンド・グリーンランド財団、セイラビリティジャパンなどの協力を得て、実現されました。

活動の要 -ハンザ-

体験乗船で使用されるハンザは、バリアフリーにセーリングを楽しむことを目的として1992年にオーストラリアで産まれた2人乗りのヨットです。船体の下のセンターボードという横流れを防止する板の重さが30kgと通常のヨットの数倍ほどあるのが特徴です。そのため、安定性が高く転覆の心配がないため、初心者でも普段着の上にライフジャケットを着けるだけで海に出ることができます。また、通常のヨットでは、座る位置を変えて艇のバランスを取る必要がありますが、ハンザは安定性が高くその必要がないため、二人の搭乗員が正面を向いて並んで座り、間にあるジョイスティックとロープで舵と帆を動かすことで、快適なセーリングを楽しめます。

安全な乗船に向けた準備

体験乗船会は、参加者に安全、かつ、楽しく過ごしてもらうために手厚いホスピタリティをもって運営されています。1回の運営に関わるボランティア会員は約30人。開始前に当日の天候、使用する艇と参加者に関する情報を共有し、終了後には反省点と次回の予定を周知します。開始前の情報共有が終ったら、艤装(ぎそう)と呼ばれる、艇に乗るために必要なマストなどの装備を施す作業を、1艇あたり2~3人で行います。準備を含め30分程の時間をかけて声を掛け合って作業し、その結果を別の艤装チェック担当者が確認します。情報の共有と確実な準備をしっかり行うことで、海の上で人を乗せる活動における「安全」を確保していることが分かります。

体験乗船会 -きめ細かい工夫-

参加者が安心して楽しむためのきめ細かい工夫も随所に見受けられます。会員は、揃いのポロシャツと役割毎に色分けされた帽子、名札を身に着けており、広い港でも遠くからすぐに見つけられます。障害者は、名前を呼んで会話するほうが落ち着くという経験から、ライフジャケットには参加者の名前が付けられていて、その効果は乗船中に発揮されます。
また、乗船の事前説明や休憩時間など参加者が地上にいる間もコミュニケーションが意識されていて、終始リラックスした雰囲気が作られています。
乗船中は、ボランティアインストラクターと並んで座り、慣れてくると参加者も艇を操縦させてもらえます。風の向きや強さ、波の大きさを直に感じつつ慣れない手つきで艇を操る様子は、さながら教習所で教官が同乗する車を運転するようで、安心して楽しめることがよく分かります。

オリンピック競技会場で活動する

活動の拠点とする江の島ヨットハーバーは、2020年東京オリンピックのセーリング会場になります。オリンピック開催がもたらす効果について、広報・渉外担当で副理事長の大西清七郎さんに伺いました。
「NPOとしてハンザの体験乗船会を主催していますが、集客はなかなか難しい」と、集客の苦労があったと言います。しかし、江の島がオリンピック会場に決まったことを契機に、2016年から神奈川県主催の体験乗船会も開催されるようになり、このサポートをセイラビリティ江の島が担当したことで団体の認知度も高まり、「NPO主催の体験乗船会も、2018年からは募集を開始するとすぐに満員になる状況で、嬉しい悲鳴をあげています」と言います。一方で、リハーサル大会が行われる2019年とオリンピック本番の2020年は港が使用できず、活動が大きく制限されるという側面もあるそうです。

長い目で活動に取り組む

大西さんは、活動を維持していく上での悩みは、「ハンザの体験乗船会を支える会員を増やしていくことだ」と言います。現在の会員約170人のうち、普段から体験乗船をサポートする人は半分以下の70~80人。更に平日も含まれる月5回程度の活動に頻繁に出て来られるのは30~40人程で、毎回決まった顔ぶれになってしまうそう。「こうした状況は急には変えられないので、ボランティアインストラクターの養成講座などを活用して少しずつでも会員を増やしていき、改善していきたい」と言います。

初心者もしっかり育つ養成講座

ボランティアインストラクター養成講座は、会員になった人を対象に毎年4月~10月に実施されており、更に体験乗船会が開催されない1月~3月には養成講座の修了者を対象としたレベルアップ講座も開かれます。この養成講座を受講中という会員の佐藤修さんは「ボランティアに興味はあったが、ピンとくるものがなかった。新聞を読んでこれなら面白そうだと思って受講した。セーリングやハンザは全く未経験。同じ受講生も経験がある人は1/3程度で経験者が多いわけではない」と、全くセーリングの経験が無い人の受講が多いことを語ります。
東京都が行った調査(※)では、ボランティア活動参加に関して行政機関に望むものとして、情報提供、体験機会、普及活動に次ぐ4番目に「技術等を得るための講習会等の開催」が挙げられており、養成講座がボランティアインストラクターを増やしていくために重要な取り組みだと分かります。
ハンザの体験乗船会の参加費は、大人は1,500円、小学生以下、障害者手帳をお持ちの方とその介助者は750円です。一風変わったボランティア活動に興味があるという方は一度体験乗船会に申し込まれてはいかがでしょうか。参加者もボランティアを務める会員も、皆が笑顔で楽しんでいて心がほっこり温かくなります。何より、東京オリンピックの舞台となる江の島で気持ちよい風を感じることができます。一度味わったら、その風に押されて新しい一歩が踏み出せるかもしれません。
※「都民等のボランティア活動等に関する実態調査(平成30年3月)」(東京都生活文化局) 本編1-15行政機関への要望、Q14参照
http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2018/03/29/35.html
(取材・文責:安田 純)

寄付・ボランティアのお問い合わせ

特定非営利活動法人 セイラビリティ江の島

住所:神奈川県藤沢市江の島1-12-2
電話:080-5446-1173(8:00~17:00)
URL: https://saeyoyaku.resv.jp/

安田 純(やすだ じゅん)プロフィール

平塚市生まれ、川崎市在住。これから少子高齢化していく日本にはNPOの活動が大きな役割を果たすと考え、その実態を知るために2017年からNPOレポーターとなる。趣味のランニングと仕事の合間を縫って取材活動に奔走しています。