「家族の歴史の伴走者に」 赤ちゃんからのアートフレンドシップ協会の育児支援

NPO法人赤ちゃんからのアートフレンドシップ協会(以下「赤ちゃんアート」)は、参加者が芸術を通して自分らしい感覚を意識したり、素敵なところをお互いに見つけたりすることなどでつながる架け橋活動をしています。その中でも「アートで子育て」を第一コンセプトとし、家族鑑賞会とワークショップを活動の大きな柱として、育児支援を行っています。

赤ちゃんも絵を観る

「赤ちゃんアート」の代表理事である冨田めぐみさんは、10代の頃から子ども・表現・メンタルに関わる仕事をしたいと思っていたそうです。そのために大学で心理学科を専攻し、色彩心理やアートセラピー、子どものアートスクールを運営する会社に就職。出産を機に独立し、茅ヶ崎市美術館のアトリエで2003年から親子向けのワークショップを始めます。その後、子どもの作品展や、創作表現から見る子どもの発達についての講座を共催するなど美術館との関わりが出てきました。

そんな中、美術館から相談を受けたのは2012年のことです。女子美術大学出身者を中心とした絵画展「響きあう女性美術家の世界展」の際、赤ちゃんのいる方にも来館してほしいのだが、どんな対応が必要だろうか。美術館の担当者は授乳室がないことなどのハード面の整備不足を気にしていましたが、冨田さんの提案は違いました。赤ちゃんだって絵を鑑賞すると思い、子ども連れで楽しめる家族鑑賞会を企画したのです。

茅ヶ崎市美術館鑑賞会にて

実際に茅ヶ崎市美術館で鑑賞会をおこなってみると、じっと見つめたり、指さしをしたりして気に入った絵を教えてくれる子どもの様子を見ることができました。「一日誰とも話さなかった…ということもある育児中に、まだしゃべれない小さな子どもでも絵を見て伝えたいことがあるのだと感じたり、子どもを個人として認識できたり、会場の他の家族と話したりすることで子育ての孤立感が減るなど、家族鑑賞会が架け橋になっていることが分かりました。」と冨田さんは言います。

ここから始まった家族鑑賞会は、「疲れない」「楽しい」「他の人に迷惑をかけない」鑑賞会として、平塚市美術館、東京都現代美術館など各地で実施し、2020年2月現在、5,200人を超える家族が参加しています。

また、平塚市美術館では家族鑑賞会から発展し、乳幼児が多く反応した作品を集めた収蔵品展「気になる!大好き!これなぁに?赤ちゃんたちのセレクション」を2015年に開催しました。前年、前々年同時期の収蔵品展の入場者数が1,200人ほどだったところ、3,800人ほどの入場者を数えています。

ワークショップで育児支援

育児支援の方法はいろいろありますが、「アートを通じてワークショップをすると具体的でわかりやすいのが特徴です」と冨田さんは言います。子どもが初めてハサミを使いたいと思ったときに、大人がするように片手で紙、片手でハサミを持って切るのはとても難しいことです。

上手にできないと、使えなかった悲しい気持ちだけが残ります。ここで、大人がハサミと垂直になるように紙を持つことで、子どもが両手で安全にハサミを使うことができます。できたという喜びが持てると次のことをやってみようと思えるようになるのです。

2019年9月に、茅ヶ崎公園体験学習センターうみかぜテラスで行われた、くだものワークというワークショップを見学しました。

参加者は2歳から4歳の5人の子ども達です。土曜日ということもあり、一家揃ってやって来ている家族もいます。自己紹介の後は、持ってきた果物を当てるクイズが始まりました。「持ってきた果物はどんな色?どんな形?触ったときはつるつる?ザラザラ?」冨田さんが質問していきます。子ども達は持ってきた果物を見せたくて、つい自分で果物の名前を答えてしまっていました。「梨だね!バナナだね!」お互いの持ってきた果物を見比べて、みんな得意げににこにこしています。

それが終わると果物を見ながらお絵かきです。果物の絵を描いていない子もいます。「小さい子にとって目の前にあるものを見て描くのは難しくて、頭の中にある描きたいものを描く子の方が多いんですよ。」参加者の中を回りながら冨田さんは言います。目の前のバナナを描いたり、自分の好きな桃の絵を描いたり、クレヨンと絵の具で思い思いに楽しんだ後は、モチーフに使った果物の食べ比べ、果物の絵本の読み聞かせと盛りだくさんな1時間でした。

子どもの成長のタイミングは様々です。「子どもの準備ができた時に、ちょうどよく手助けができれば楽しく子育てができるのに、『何歳だからこれができるようにならなくては』と思い込むと育児が辛いものになってしまう。長年のワークショップの積み重ねで『今これができなくても心配ないよ』と言えるのが赤ちゃんアートの強みです。」と冨田さんは言います。

書くことでゆとりを

参加していた保護者がアルバムを見せてくれました。参加した日の写真と記録用紙が貼ってあります。記録用紙はワークショップの最中に保護者が書きます。楽しかったこと、うれしいことや気づいたこと、ワークショップでできたこと、子育てについての質問などを記入すると、スタッフがそれに返事を書き、次の参加時に写真とともに渡してくれるのです。この方は「ワークショップには12回、鑑賞会にも2度参加しています。このアルバムを見ると変化もわかるし、美術館へのハードルが下がりました。」と話してくれました。

赤ちゃんアートのワークショップは、保護者が「書く」ということが特徴です。参加した保護者はアルバム用に記録用紙を書きます。「書く」ことで気持ちの整理ができ、そこにゆとりが生まれるのです。参加するたびに書き続けていくことで、子どもの変化やどんな時に調子が悪くなったりするのかが明らかになってきます。それだけではなく、子どもが大きくなってから、また親になったとき、大人が奮闘して子育てしていたことが伝わる記録となるのです。アルバムは現在進行形のプレゼントと、未来のためのプレゼントになります。「このアルバムを作成していると、赤ちゃんアートのスタッフも家族の歴史を一緒に作っている気持ちになる」と冨田さんは笑顔になりました。

赤ちゃんも子どもも大人も

初期のワークショップに参加していた子どもが成長し、入学試験や就職活動でその経験を思い出したと言われることもあるといいます。お互いのいいところを認め合ったことや、知らない人と作品を通して会話したことが大人になってから活きるようです。

赤ちゃんアートでは、新たに茅ヶ崎市内の小学校で朝の授業前の時間に絵画鑑賞会を始めました。グループで絵をみて、気づいたことや感想を話し合う時間です。この試みが読み聞かせのように広がったらと冨田さんは期待しています。「直接役に立つものではないけれど、成長するときに必要な何かがアートにはあります。画家が命を懸けて創ったものと対峙することで感じるものが人生の支えになることもあります」。 赤ちゃんアートの活動は子どもだけにとどまりません。子育てが終わった世代や子どもがいない人も賛助会員になることで、自分も楽しみながら運営を支えることができます。家族、先生以外の大人と関わることは、子どもにとっても大きな刺激になるそうです。

子どもだけでなく保護者のためにも

ワークショップは定期的に茅ヶ崎市美術館、茅ヶ崎公園体験学習センターうみかぜテラスで行われています。以前は市内の子育て応援情報サイトの情報を見て参加する人が多数でしたが、情報サイトの休止により広報するのが難しくなっています。Facebookにも情報を載せていますが、友人とのやり取り以外にSNSを使っている人が少ないと冨田さんは感じています。どのようにして子育て世帯に情報を届けるかが課題となっています。

「寄付を頂けるのはもちろんとても助かりますが、こんなご時世なので、ワークショップや鑑賞会の依頼があるととても嬉しいです。市外各地への出張講座もおこなっているので、町内会や子ども会など、気軽に問い合わせてほしいです。」と冨田さんは言います。赤ちゃんアートは子どものためだけでなく、保護者にもほっとできる場を提供するために活動を続けていきます。

寄付・活動についてのお問い合わせ

特定非営利活動法人 赤ちゃんからのアートフレンドシップ協会
〒253-0035 神奈川県茅ヶ崎市浜須賀5-7
TEL・FAX 0467-86-5533
HP https://www.art-friendship.org/
E-mail ホームページよりお問い合わせください
Facebook NPO法人 赤ちゃんからのアートフレンドシップ協会

小林ゆき プロフィール

祭とサーフィンのさかんな町で、神輿は見るだけ、海は浸かるだけで育つ。ずっと住んでいるのに、地域の行事に関わっていないため知らないことがたくさん!知ることは灯りをともすことと信じ、知っているつもりのこと、身近すぎて気がつかないことを知るためにアンテナを立てています。