自然と芸術が織りなす藤野の魅力を見つけ・つくり・伝えるNPO法人ふじの里山くらぶ

豊かな自然環境と里山文化を生かした町づくり

神奈川県最北端に位置する相模原市緑区内にある旧・藤野町(2007年に相模原市に編入)。JR新宿駅から1時間程の場所に位置する人口約1万人のこの地区は、都市部へのアクセスが便利なことはもちろん、豊かな自然の中に彫刻が点在する等、文化・芸術活動が盛んな地区として近年注目されています。NPO法人ふじの里山くらぶ(神奈川県相模原市緑区小渕1689-1)は、自然と触れ合う機会の少ない都会の人々に、山里体験や地域の人たちとの交流を通して、この地区の魅力を知ってもらうために2004年5月に発足しました。国指定重要文化財である古民家、石井家住宅などを見学し、旧・藤野町に伝わった郷土料理の昼食を味わうことができるふじの里山古民家ツアーや、ふじの里山ウォーキング、気候変動の藤野学、地域活動を行っている他の団体とのネットワークづくりを軸に活動を展開しています。この団体の代表である星和美(ほし・かずよし)さんに、活動の経緯やこの地区で目指すまちづくりについてうかがいました。

特産品と共に藤野町をPRする団体を作ろう

中学校教員として藤野町の多くの生徒たちを社会に送り出してきた星さん。「藤野町を巣立つ子どもたちが、自分の故郷をいつまでも『活気ある素敵な町』と胸を張れる町にしていきたい」と、常々感じていたと言います。そんな中、星さんが退職する2003年頃に転機が訪れました。「それまで開発されていた藤野の特産品の宣伝と同時に、藤野町をPRする団体を発足しよう」という話が、当時の商工会から星さんのところに舞い込んできたのです。「以前から藤野の町おこしを考えていたから、願ってもないよい機会だとその話に賛成しましたね」と、星さんは当時を振り返ります。星さんは団体の名前や活動について考えをめぐらせ、1年の準備期間を経て、2004年5月に約20人のメンバーで藤野町のPR団体「ふじの里山くらぶ」を設立しました。その後、2010年12月にはNPO法人ふじの里山くらぶに、2014年6月には相模原市指定NPO法人ふじの里山くらぶへと更に発展していきます。

多くの文化人の作品に出会える

藤野地区で代々アートの活動が受け継がれているのは、第二次世界大戦中に猪熊弦一郎や藤田嗣治といった著名な画家がこの地区に疎開していたことも、理由の一つとされています。また、今でも多くの芸術家たちが藤野地区に在住し芸術活動に取り組んでいます。

独自の視点から子どもたちの感性に訴える著作で評価が高い児童文学者・丘修三さん(※)も、この藤野地区に在住している芸術家の一人です。2019年10月26日から12月1日まで、「児童文学者 丘修三」展が吉野宿ふじや(相模原市緑区吉野214)で開催されました。
(※)代表作に「ぼくのお姉さん」(偕成社)や「口で歩く」(小峰書店)があります。

会場には子供向けの絵本が数多く展示されたほか、詩や書道も展示され、子供から大人まで幅広い世代が訪れていました。散歩途中からそのまますっと気軽に入場して作品に出会えるのも魅力で、1日に10人から20人の来場者が訪れました。

会場になった「吉野宿ふじや」は、江戸時代に旅籠として栄え、2014年4月1日には市登録文化財に登録されました。NPO法人ふじの里山くらぶでは、この吉野宿ふじやの活性化を進めようと、数年前から相模原市立博物館との協働により、今回の展示会のような藤野地区の土地にちなんだ歴史や文化関係の展示会の開催に取り組んでいます。2016年には、「甲州道中 吉野宿マップ」を手掛け、2017年度には「藤野の養蚕」展などの企画展や関連事業を開催しました。良く立ち寄るという男性は、「来るたびに違う催しがあって興味を惹かれますし、とても落ち着く空間で気に入っています」と、穏やかに話します。現在、1階は主に展覧会に使われ、2階は郷土資料館になっていて、地域の歴史や文化に触れることができ、観光客が訪れるだけではなく、藤野地区を代表する建物の一つになっています。

もっと近くなるこれからの藤野地区

都会的な生活から農的な暮らしへのライフスタイルの変化を求めて、育児中の若い世代が藤野に移住してきています。「もともとは都心に住んでいましたが、子供の進学と共にこの藤野に引っ越してきました。バスで登校することもできるけれど、片道50分を徒歩で登校することも結構よくあります。イベントも多くて住んでからも思ったとおりの良いところです」と、子育てまっただなかのの女性は楽しそうに話しました。

ふじの里山くらぶは、発足当初は定年退職後のメンバーが中心でしたが、現在では若い世代も参加し始め、女性メンバーも増えて新たな視点でのイベントや事業づくりに力を入れています。「登山はもちろん、相模湖の花火大会や温泉、キャンプや釣りなど、藤野周辺には、観光に適したスポットがまだまだあります。ただ、藤野地区内を回るバスの本数や系統が少ないのが課題です」。 芸術溢れる藤野を見て回るにはコミュニティバスなど「藤野地区内の交通機関を充実させることですね」と、星さんは今後の課題について前向きに話しました。NPOの理事が中心のやや内向的だった活動も、これからは理事だけでなく、会員や住民たちと一緒に活動していく外向きなものに転じていこうとする「ふじの里山くらぶ」。気軽に交流を深め、藤野を盛り上げる企画や運営に参加できる場づくりにこれからも力を注いでいきます。「こんな集まりがあったらいいな」という声も募集しています。魅力溢れる藤野地区の歩みに、これからも新しい風が吹きそうです。

里山くらぶ会員募集

ふじの里山くらぶでは、藤野を好きな方、藤野の地域活性に興味がある方など、くらぶの主旨に賛同する方の会員募集を行っています。藤野に興味・関心がある方であれば、地域内外問わず入会できます。入会すると、年に4回の会報やふじの里山くらぶや会員が主催するイベントの情報が届きます。詳しくは、ホームページをご確認下さい。

個人会員 年1200円
団体会員 年6000円(1口)

ふじの里山くらぶ
〒252-0184:相模原市緑区小渕1689-1
Tel:042-686-6750
Fax:042-686-6750
HP:https://fujino-satoyama.com/

野地静香 プロフィール

神奈川県小田原市生まれ。仕事をしていく中で、相手の立場を考えて話すことの大切さを感じるようになり、東京アナウンスアカデミーに通い始める。卒業後はケーブルテレビの市民リポーターとして、地域に関わりながらさまざまな情報を伝えてきた。今後も神奈川県内の情報を広く伝えていくことを目標としている。